合法浮気
「うん、この人。うちで働いて貰うのどうかな?お仕事探してるんだって」
「でも、うち県外だぞ?」
「色々事情があって、地元離れたいらしいよ。うちに入って貰おうよ!」
男の人が驚いた表情みせて。チラチラと私の方に視線を向けながら、妹の"茉昼"さんという人と話を続けていく。
というか、私まだ仕事内容も聞いてないし、承諾もしてないんだけど。
「ちょっと待って、何も見てないのに決められない……、」
でも──、仕事を理由にここから逃げだせるのか。
両親や友達、職場の人達の顔が頭に思い浮かんで、ぐらぐらと頭の中が揺れる。
「お兄ちゃんちょっと来て」
茉昼さんがお兄さんの腕を引き、少し離れたところに行くと小さな子も「ママー」なんてついていく。
2人共、真剣な表情で何か話してるようだけど、きっと私のことだよね。
「一応、こういうものです」
戻ってきた男の人が私に1枚の名刺を差し出した。そこには、"ホテル桐田 取締役副社長 桐田智夜"と表記されている。
「あ、私は白河 彩里といいます。すみません、名刺なくて。ホ、ホテルの副社長なんて凄いですね」
「いえいえ、ホテルといっても大きいものじゃなくて。家族で経営してて、従業人も30人以下なんですよ。そこで併設のキャンプ場経営を任されてます。キャンプ場内にカフェをオープンする予定で、妹の茉昼と働く人を募集しているんですが……」