オブラート
すると、
拓真は無言で持ってきた拡声器のスイッチを入れ、突然、リビングに向けて喋り始めた。
「春美の父親に告ぐ〜」
「ちょっ…ちょっと、拓真くん!?」
夜中に大音量の拡声器を使った声に、近所の住人達は何事かと思い、一斉にカーテンを開けた。
「お前に春美を育てる資格はありませ〜ん。
よって、春美は俺たちが預かる」
「……。」
居間のカーテンの隙間から父親の姿が見え、私は拓真の突拍子もない行動に、ただ唖然とした。
「ほい、お前の番」
拓真はそう言って、リン君に拡声器を渡した。
「…え、俺も?…なんて言えばいいの?」
「知らねえよ、バカとかアホとか適当に言え」
「……。」
リン君は苦笑いしながら拡声器のスイッチを入れ、少し照れながら、私の家のリビングへ向いた。
「バーカ、アーホ」
「よし、行くか」
「え…俺の役割これだけ?」
拓真はそう言ってアクセルを回し、微妙な暴言を吐いたリン君も、バイクを発進させた。