クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 セイラに招かれて、リザンブルグ城の裏手にやってきた。いつもここから城を抜け出しているらしい。スタンは、隊長にバレると問題になると言って、本来の持ち場に戻って行った。
 
「いい? ここからノキアは、王女様だからね」
「わ、わかった……」
 覚悟を決めてノキアは購入したウィッグを被り、裏口の扉をそっと開けた。
 そこは薄暗い食糧庫につながっており、さらに奥へ進むと厨房があって、使用人たちがパーティーの準備で忙しなく動いていた。この動きに紛れてこっそりとこの場を抜けようとしたが、さすがに気づかれた。
 
「あらまあ、セイラ様! またお城を抜け出していたんですか!?」
 ノキアはビクッと心臓が跳ね上がりそうになる。セイラも変装しているとはいえ、表情を強張らせた。
「ええ……そう、なの……」
「えぇと、こちらの方々は……?」
 使用人の女性が、本物のセイラの顔を覗き込もうとしたので、さすがに至近距離はまずいと、セイラはデュランの影に隠れる。セイラが言い訳を述べれば、声で正体がバレてしまう可能性がある。デュランは、それを察したのか一歩前へ出た。

「突然のご訪問、申し訳ありません。私どもは王女様の友人でして。急遽プライベートな相談をしたいとのことだったので、あえて表から入るのは控えさせていただきました。何しろ、城内であまり目立たない方がよろしいかと思いまして。ご理解いただければ幸いです」
 デュランは流れるような口調で言い訳を述べると、疑いの目を向ける使用人の女性の手をそっと取った。軽く微笑みを浮かべたデュランに、使用人の女性はほのかに頬を染める。

「あ、あらぁ……そうでしたか……。ほほほ、ここは見ての通り皆忙しくて。出口なら、そちらですわ」
「感謝いたします」
 デュランは使用人の手を包み込むように握り、感謝の気持ちを込めた。
 彼女がぽーっとなっている間に厨房を出ると、ノキアは気を引き締めて王女らしく振る舞いながら廊下を歩く。セイラの部屋の場所は、先ほど雑貨店で教わっている。

「デュラン……。そんな演技もできるとは思わなかったよ」
 ノキアは歩きながら、呆れるように横目でデュランを見る。
 「本当は遠慮したいところですが。あなたを守るためなら、いつでも」
「私は、そんなに弱くない」
「……そういう意味ではないのですが……」
 
 少し距離を置いて後ろを歩くセイラは、そんな二人のやり取りを微笑ましく見守っていた。
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