クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 ノキアは、正体がばれないようにと、なるべく口を開かないでいた。
「姫様、今日は随分と無口なんですね。いつもはパーティーなんてって、愚痴ばかりですのに」
 侍女が、後ろでネックレスのホックをつけながら優しげに話しかけてきた。無口すぎるのも問題なようだ。
「あ、あの、ちょっと、喉の調子が……」
 わざとらしく、ケホケホと咳払いをする。
「まあ、風邪ですか? 今日は早めに就寝なされたほうがよろしいですね」
 旅の疲れもあるし、ノキアとしても、そう願いたいところであった。
 
 変装してノキアと名乗るセイラは、王女の友人としてパーティーに招かれることになり、簡単にドレスアップしていた。その傍には友人の用心棒として、デュランがいる。

「わぁ、王女様、似合う似合う。ね、デュランもそう思うよね?」
 セイラは嬉しそうに手を叩き、デュランに同意を求めた。
「はい。あなたのそのような姿は、久しぶりです」
 優しく微笑むデュランに対し、ノキアは真っ赤になってうつむく。
「う……。このような姿は、もう二度としないと思っていたが……」
「そんなこと言わずにさ、やっぱり女の子だもの。たまにはドレスも着たほうがいいよ」

 セイラが、ノキアの手を取り会場へと案内する。
 客将扱いであるデュランと下級騎士のスタンは、出入り口の側に立たされ、非常時以外、貴族の傍に行くことは許されなかった。

「姫様もノキア様も、綺麗だすねぇ……」
 うっとりしているスタンは、デュランに同意を求めるように言ったが、デュランは無言だった。
 ただ一心に、ノキアの姿を目で追っていた。
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