クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 バルコニーでは、ノキアと王子のふたりだけだった。かろうじて護衛の目の届く距離ではあるが、なにかあっては遅い距離である。

「セイラ殿、どうしたんだい? こんなところに誘い込むなんて、君もやっとその気になってくれたということかな?」
 王子は、ノキアの肩を後ろから抱いた。驚いたノキアは目を見開き、体を強張らせる。
 

 その後ろ向こうでは、デュランが目を光らせ、スタンが止めていた。
「気持ちはわかるだすが、落ち着くだす、デュラン殿ー!」


「ひとつ、教えてください……。あなたは、私を愛して婚約を求めているのですか? それとも……国のため、ですか?」
 ノキアは、セイラに代わって問い(ただ)した。
「ふう、愚問だね。君も一国の王女ならわかるだろう? そりゃあ、僕は君を愛している。しかし、僕は一国を背負った王子、後継者だ。国のためになることをするのは、至極当然のことだろう?」
「そう、ですね……」

 ──私はそこから逃げてきたのだ。
 ミタの後継者という立場から。

「なにも心配はしなくていい。君は僕と結婚する運命にあるのだから」

 ──違う。仕方がなかった。私には、その資格がなかったから。
 言い訳にすぎないのか……?

「早かれ遅かれ、そうなるんですよ」

 ──私は逃げてきた。
 だから、こんなこと、私が言う資格はないのかもしれないが……。

「さあ、誓いの口付けを……」

 王子がノキアに近づくのと、デュランが剣の柄に手をかけたのは、ほぼ同時だった。しかしノキアは怒りを抑えた表情で、靴のヒールを王子の足にぐりぐりと食い込ませた。
「私がこんなことを言う資格はないのかもしれないが……。おまえに王女はやらん!!」
 ノキアは、憤慨してバルコニーを去った。
「そ、それでこそ……我が妻にふさわしい……」
 王子は、そう言いながらその場にしゃがみ込んだ。
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