クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 その頃、セイラに扮したノキアの方も、王子を西の塔へ行かせるための作戦に入っていた。

「久しぶりに、西の塔へ上ってみたくなりました。あそこからの眺めはすばらしいですから……」
「いいですとも、君の望みなら、それくらいお安い御用ですよ」
 王子がノキアの肩に触れようとしたところを、不自然にならないように、ノキアはささっと離れる。

「では、私はその前にお化粧を直してまいりますので、王子は先に行っていてください」

 王子と離れた後、ノキアは化粧室でドレスを脱ぎ、変装用のカツラと眼鏡を着用した。これで、どこから誰が見ても、最初に王女と共に来た護衛の一人である。
 ノキアは、二人と合流するために、東の金庫室へ急いだ。



 金庫室から警備兵が去った後、中は老人の管理官一人であった。この管理官も、セイラを子供の頃から知っている人物である。

「おや、セイラ殿。お久しぶりですなぁ。またいたずらに来ましたかな?」
 管理官は、優しげに笑う。

「もう、昔のことはいいでしょう? 今日はね……」
 セイラは、どこからかスプレーを取り出し、管理官に吹きかけた。

「セ、セイラ殿、それは……」
「ごめんねぇ、睡眠スプレーなのよ」
 管理官は床に倒れ、いびきをかいて寝てしまった。
「早く金庫を!」
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