クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 この時、デュランの脳裏には、よからぬ葛藤が生まれていた。

 ──私が直接手を下さずとも、ここで命を落とせば、私の任務は終わる……。

「いたぞ、侵入者だ! 鉄砲用意!」

 ──しかし、しかしだ。
 なぜか体が勝手に動いてしまうのだ。

 ──私もまた、ミタの剣士なのだから。

「撃て!」
 警備兵が、一斉に鉄砲を撃った。
 
魔法結界(シールド)!」

 デュランが魔法を唱えると、二人の前に七色の輝きを放つ透明な壁が瞬時に現れた。その光の壁が、まるで水面に小石を投げたように、波紋を描きながら鉄砲の弾を弾き返す。

「な、なんだと!? おまえ、魔法が使えるのか!?」
 警備兵の一人が驚きたじろいだ。

 ──私は、ミタの剣士でありながら、守るためにこの魔法を覚えたのだ。
 ──そう、ノキア殿を守るために。

 デュランはその冷静なまなざしを兵士たちに向け、再び剣を抜いた。

「どけ!」

 剣を横に一振りすると、周囲の空気を切り裂いた。風圧は警備兵たちをなぎ倒し、彼らは無力に吹き飛ばされた。

「う、撃て、撃て!」
「無茶言わないでください隊長! 鉄砲は準備に時間がかかるんです!」
 叫ぶ警備兵たちも、デュランの一撃に怯え、抵抗も無駄に次々と倒れていく。

「やはり、デュランはすごい……。それに比べて、私は……」
 その姿を見ていたノキアは、少し惨めな気分になった。
 そして同時に、デュランが魔法を使用したことで、自分の中にあった小さな疑問が確信に変わり始めていた。
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