クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 その夜、ノキアはひとりバルコニーに立ち、月を見つめていた。
 今日の出来事が、頭の中で次々とよぎっていく。反省したいことばかりだった。

「こんばんは。そのような格好では冷えますよ」
 声をかけられ、見ると隣の部屋のバルコニーで、デュランが立っていた。
「いいんだ。ちょっと頭を冷やしたい」
「あなたのことですから、また悪い方に考えているのではないですか?」

 ノキアとデュランの付き合いは、もう5年近くになる。ミタの剣士であるノキアの父の元へ、デュランが弟子入りを申し込んでからだ。ミタの剣術は、すべて習得するのに10年はかかると言われているが、デュランはそのほとんどを、5年でマスターした才能の持ち主であった。それが、ノキアにとって尊敬する部分でもあり、また妬ましくもあったのだ。その人物に心の裏を読み取られると、素直に吐いてしまうしかない。

「そうだな。しかし、大臣殿の言うとおり、セイラを守れなかったのは事実だ。誰がなんと言おうとな。人一人守れない私は……やはりミタの継承者には向いていないのかもしれない。残念だったな、デュラン」
「…………どういう、意味ですか?」
 デュランは、ぴくりと眉を動かした。
「さあな」
 ノキアははぐらかした。隠し事が多いのは、お互い様である。

「しかし、ミタの剣術がなければ、もっとひどいことになっていたかもしれません。その点では、あなたはちゃんと、セイラ殿を守っていますよ」
「例え話はいいんだ。結果が、すべてだ……」
 事実はどうしても曲げられない。そのことが、ノキアの胸に重くのしかかっている。
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