クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 しばらく沈黙が続いた。夜の寒風に肩を震わせると、ふわりと、あたたかいものが肩に乗った。いつの間にか、デュランがこちらがわのバルコニーに移ってきており、肩に上着をかけてくれていた。
「……ありがとう。いつも、気を使わせてばかりだな」
「気にしないでください。私が好きでやっていることです」
 デュランは微笑みながら、何でもないようにそう言った。いつものように穏やかな表情に、ノキアは安心する。しかし、胸の奥にはまだ不安がくすぶっていた。ミタの後継者としての重責、過去の失敗や魔法協会との対立……それらが時々、ノキアの心に影を落とす。

「なあ、デュラン。私がもし、ミタの後継者の座を譲ると言ったら、どうする?」
「断りますね」
 デュランは、間髪入れずに答えた。
「だろうな。ミタは常に危険がつきものだ。さすがにおまえでも、それは避けたい、というところか」
「危険は承知しています。あなたの傍にいる限り。だから……」
 デュランは、後ろからノキアを抱きしめた。
「あなたを守るために、ミタの剣士を名乗るのです」
「デュラン、私は、ミタの後継者である資格はない。その力もない」
 ノキアは声を震わせ、目を伏せた。
「あなたは気づいていなだけなのです。あなたは、ミタの剣術はすべてマスターしているはず。その力のすごさに、気づいていないだけなのです。それに、あなたがミタの後継者でなくとも、私はあなたをお守りします」
「うれしいことを言ってくれるな……ありがとう。少し、元気が出た」
 元気が出たところで、ノキアはデュランから離れようとしたが、デュランの腕がノキアを離さない。
「デュラン……?」
「すみません。もう少し、このままでいさせてください」
 デュランが希望を言うことは、珍しかった。ノキアは無言で目を伏せ、デュランの腕のあたたかさを感じていた。
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