クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない

7・王子の本心

 あれから、アイゼンブルグの方から何も言葉はなく、リザンブルグはいつも通りに平和だった。何も咎めてこないということは、重要書類を盗んだことや、リザンブルグの王女であるセイラを傷つけたことを、公にしたくないという理由からだろうと、大臣は予測していた。それは、こちら側も同じ考えであり、アイゼンブルグとは必要以上に干渉しない日々が続いた。
 リザンブルグに留まることになったノキアは、数日おきに、セイラの身代わりとなって式典などに出ていた。なにをすることもないが、ただ人形のように座っているノキアは、城を抜け出したくなるセイラの気持ちを汲み取っていた。
 デュランは、臨時の騎士として、王女になっているノキアの傍にいることを許された。だが、事情を知らない城の兵士からは、臨時の者をなぜ王女の傍にと、疑問と妬みが飛び交った。しかし、デュランはそのような視線もお構いなしであった。

 一方セイラは、まだ意識が戻らない。ノキアは毎日見舞いに足を運ぶが、自分と同じ顔の寝顔を見るのも、妙な感じだった。
「セイラ……。このまま目を覚まさなかったら、私は一生おまえの身代わりだ。そんな人生も悪くはないが、できれば勘弁してほしいな」
 冗談交じりに、ノキアは眠ったままのセイラに語りかけた。
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