クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
「すまなかった。……いや、これはセイラ殿に言うべきだろうな。しかし、セイラ殿を傷つけるつもりはなかった。おまえが庇うだろうと見込んでの行動だ。それはわかってほしい」
「それにしても、爆弾を使うなど……!」
「僕は王子だ! 国を守ることが、第一だ……」
「セイラの命は二の次だと言うのか!?」
「そのつもりはない! 今の僕が、何をいっても言い訳にしかならないだろうが……。セイラ殿を愛している。それは確かだ……」

 王子の言葉は本心なのだろう。しかし納得できないノキアは、ぎゅっと拳を握る。

「だが、おまえは国のためにセイラと結婚すると言った。私には、それが許せない……。なぜセイラのために、おまえ自身のためにと言えない!? 国を捨てる覚悟もないのか!?」
「僕が国を捨てたら、民はどうなる!? アイゼンブルグはどうなるのだ!! 僕は、民のすべての命を背負っているんだ……。僕には、国を捨てることなどできない。彼女も一国の王女、それはわかっているはずだ……」

 ノキアは言葉を詰まらせた。王子の言っていることは正論であるが、胸の中に広がる違和感は消えない。
「国を捨てる覚悟もないのか」──その言葉が、自分自身に向けられているような感覚に襲われた。ノキア自身もまた、ミタの後継者として逃げ続け、いつか自分の過去と向き合う覚悟を迫られているのではないか──その思いが頭をよぎり、それ以上は何も返せなかった。

 それから王子はセイラを見舞い、しばらくして帰っていった。
 眠っているセイラに、何度も何度も謝っていた王子の姿が、ノキアの脳裏に焼きついていた。
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