クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
「ノキア殿!」
 城内に入り、バルコニーにつながる階段を目指すが、デュランにすぐに追いつかれた。
「ノキア殿、どこへ行くつもりですか!」
「はなして! セイラと話をしてくる!」
 掴まれた手を引き剥がそうと抵抗するが、デュランは離してくれない。
「セイラ殿が決めたことです。我々がどうすることではありません」
「しかし、セイラはあんなに嫌がっていたではないか!」
「気が変わった、ということではありませんか?」
「そんな……そんな急に……!」

「急ではないわ」
 ノキアが振り向くと、そこにはセイラがいた。
「セイラ……どうして、こんなことに……」
「ノキア。わたしはね、ノキアと会うずっと前から考えていたの。考えないわけにはいかなかったのよ。だって、わたしは……リザンブルグの王女だもの」
「わかってる! だが、嫌ではないのか? 国のために、自分を犠牲にすることを」
「犠牲だなんて思っていないわ。それに、王子のことも少しわかったし」
「わかった、とは?」
「わたしを愛してくれていること。そして、戦争を止めようとしていたことよ」
「戦争……!?」

 アルバート王子が盗んだ重要書類は、リザンブルグの軍事計画の一部だった。
 その計画書には、武具や兵器などの発注内容が詳細に書かれており、それを盗み見たアルバート王子は「リザンブルグが戦争を企てている」と思い込んだ。リザンブルグが、突然大量の武器を調達していることが不自然に見えたのだ。
 軍備増強に対する明確な理由や背景が書かれていないため、王子は「これは侵略の準備だ」と確信し、戦争を未然に防ぐために、その計画書を奪ってしまった。しかし、実際のところリザンブルグ側の意図は「自衛」にあった。アイゼンブルグのような強国と比べると、リザンブルグは軍事力も劣り、領土も小さく人口も少ない。万が一隣国に攻められてはひとたまりもないと、軍事力を強化しようとしていたのだ。、決して戦争を起こす意図はなかった。
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