クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
「王子は、戦争を止めようとしていただけなの。結果はあまり良くなかったけれど、彼なりに考えてのことだったのよ。方法が不器用なだけ、気持ちは同じだわ」
「セイラ、おまえはまさか」
 ノキアは思わず一歩前へ出て、不安そうにノキアを見た。

「わたしたちが結婚しないと、リザンもアイゼンも戦争になるわ」
 セイラは顔を上げ、ノキアの目をまっすぐに見据えた。その目には、セイラが背負っている責任の重さが宿っている。ノキアはその視線を受け止めることができず、一瞬目をそらした。

「やはり、そうなのか……」
「戦争になったら民も、もちろんあなたたちにも迷惑がかかる。そうならないようにするのが、わたしたちの役目よ」
「それはそうだが、でも私はミタの剣士だ。困っている人がいるなら、助けに行きたい」
 そう言うと、セイラは目を伏せ首を横に振る。

「ノキア。それはあなたの人を守る力だわ。でも、わたしに剣を振るう力はない。私は、こうすることでしか人を救えない。こうしてでも人を救いたいのよ」
 その言葉に、ノキアは言い返せなかった。「それでいいのか?」と、問いたかった。しかし人を救うための行為と言われれば、ノキアは何も言う術がなかった。そして自分自身がミタの血筋から逃げてきたことを、恥しく思っていた。
 俯いていたノキアを、セイラが抱きしめた。

「これでお別れになってしまうけど、また遊びに来て。あなたたちなら、歓迎するわ」
「セイラ…………。元気で、ね」
 言いたいことはたくさんあったが、決意を固めたセイラには、それだけしか言えなかった。そして、そのまま背を向けてその場を去った。デュランもセイラに一礼をして、ノキアの後を追った。


 
「気を利かせてくれてありがとう、アルバート」
 ふたりが去った後、セイラは、背後の通路に隠れていたアルバート王子に声をかけた。
「どういたしまして。おや、泣いているのですか?」
 俯いているセイラの様子を見て、王子はセイラの肩にそっと触れた。少し、ふるえているようだった。
「泣いてなんかいないわ。笑顔で、見送らなきゃ」
「それでこそ、我が妻にふさわしいお方です」
 笑顔を繕うセイラに対し、王子は優しい笑顔で答えた。
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