クールな身代わり王女は、騎士の熱愛に気づけない
 一行は、変装の準備を整えるために早速雑貨屋へ向かった。城を抜け出す際に元々変装していたセイラは、ショートヘアのウィッグを脱ぐと、さらりとローズピンクの長く艶やかな髪が背中へと流れ落ちた。姿は町娘風だが、やはりどことなく気品を感じる。

「その、先ほどは失礼しました……」
 ノキアは、少し控えめに口を開いた。
「何を?」
「王女に対して無礼なことを言ったのでは……」
 セイラはその言葉にクスリと笑って首を振った。
「気にしないで。いつものあなたでいいわ、ノキア。お城ではみんなかしこまってばかりで、窮屈なのよ。あなたみたいに率直な人は、むしろ新鮮で楽しいわ。わたしのことは、ぜひセイラと呼んでちょうだい!」

 ノキアは少し戸惑いながらも、セイラの寛大な態度に肩の力が抜けた。
 セイラは微笑を浮かべ、自慢げに髪をかき上げている。
 その髪色と長さのウィッグを雑貨屋で購入するが、セイラの髪の美しさには敵わないだろうと思った。試着室に二人で入って、衣服を入れ替える。これでノキアは町娘風、セイラは旅人風だ。

「ところで、あなたたち、どこから来たの?」
「それは……」
 セイラの問いにノキアが言葉を濁すと、カーテンの向こうからデュランが「西からです」と簡潔に答えてくれた。
 
「……まあ、いいわ。入れ替わってもらうんだし、不問にする」
 セイラは小さくため息をつく。それ以上詮索してこなかったことに、ノキアはほっと胸を撫で下ろした。
 セイラは再びショートのウィッグをつけ、念のためメガネも購入した。ノキアもローズピンクのウィッグを着用すると、すっかりセイラの姿になった。

「あらやだー。どこの美少女かと思ったわ。でも、このウィッグはお城に戻ってからにしましょうか。国民に見られると厄介だわ」
 セイラは、ウィッグを外したノキアに抱きついて愛でる。
 鏡に映った二人は、まるで双子の姉妹のようだ。
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