人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
「どうだった?」
玄関のドアを閉めるなり台所に急いで妻に問うた。
少しはいいことを言ってくれるかなと淡い期待を抱いていたが、妻は無言のままリビングに向かった。
嫌な予感がした。
あとを付いてリビングに入ると、テーブルの上に原稿が置かれていた。
「これって、何が言いたいの?」
「何って……」
質問の意味がわからなかった。
「読者に伝えたいことは何?」
「伝えたいこと?」
「そう。主題と言い換えてもいいんだけど、何を訴えたいの?」
「何をって……、それは……、タイトルの通り『欲望の代償』ということだけど」
「悪いことをしたら罰せられるということ?」
「うん。そうだけど」
妻は首を傾げた。
「気を悪くしないでね」
そこで妻は間を置いた。
気まずい雰囲気がじわ~っと広がったように感じた。
「読んでいて何も感じなかったの。単にインサイダー取引の事例が書いてあるだけで、はっきり言って面白くもなんともなかったの。きついこと言って悪いけど、このレベルでは小説とは言えないと思うわ」
グサッと来た。
結構自信があったからそこそこの評価をしてもらえると思っていたが、そうではなかった。
バッサリと切り捨てられた。
「事実を書いているだけでは小説とは言えないと思うの。その裏側にある登場人物の内面を描かないと何も伝わってこないと思うの」
「内面?」
「そう、内面。葛藤とか悩みとか色々な心情があるでしょう? それが書いてあるから読者は物語に惹き込まれるし、登場人物に思いを寄せることができるのよ」
う~ん、
「次はそういうことを考えながら書いてみて。そうすれば小説らしくなると思うわよ」
それだけ言い残して妻は台所に戻っていった。
夕食はわたしの大好きなおでんカレーだったが、味蕾はすべての味覚を拒否していた。
〈砂を噛むよう〉という表現が実感としてわかったのが今日唯一の収穫だった。
玄関のドアを閉めるなり台所に急いで妻に問うた。
少しはいいことを言ってくれるかなと淡い期待を抱いていたが、妻は無言のままリビングに向かった。
嫌な予感がした。
あとを付いてリビングに入ると、テーブルの上に原稿が置かれていた。
「これって、何が言いたいの?」
「何って……」
質問の意味がわからなかった。
「読者に伝えたいことは何?」
「伝えたいこと?」
「そう。主題と言い換えてもいいんだけど、何を訴えたいの?」
「何をって……、それは……、タイトルの通り『欲望の代償』ということだけど」
「悪いことをしたら罰せられるということ?」
「うん。そうだけど」
妻は首を傾げた。
「気を悪くしないでね」
そこで妻は間を置いた。
気まずい雰囲気がじわ~っと広がったように感じた。
「読んでいて何も感じなかったの。単にインサイダー取引の事例が書いてあるだけで、はっきり言って面白くもなんともなかったの。きついこと言って悪いけど、このレベルでは小説とは言えないと思うわ」
グサッと来た。
結構自信があったからそこそこの評価をしてもらえると思っていたが、そうではなかった。
バッサリと切り捨てられた。
「事実を書いているだけでは小説とは言えないと思うの。その裏側にある登場人物の内面を描かないと何も伝わってこないと思うの」
「内面?」
「そう、内面。葛藤とか悩みとか色々な心情があるでしょう? それが書いてあるから読者は物語に惹き込まれるし、登場人物に思いを寄せることができるのよ」
う~ん、
「次はそういうことを考えながら書いてみて。そうすれば小説らしくなると思うわよ」
それだけ言い残して妻は台所に戻っていった。
夕食はわたしの大好きなおでんカレーだったが、味蕾はすべての味覚を拒否していた。
〈砂を噛むよう〉という表現が実感としてわかったのが今日唯一の収穫だった。