人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 家に帰って、シャワーも浴びず、「先に寝てて」と妻に告げて、一心不乱にパソコンに向き合った。
 1時間後に打ち終わり、二つ目の習作にタイトルを付けた。
『だからお前はダメなんだよ!』
 その瞬間、あくびが出た。
 読み返す気力はなかった。
 歯磨きをしてすぐにベッドにもぐりこんだ。
 
 翌朝は10時近くまで寝てしまった。
 ぐずぐずしていると11時になった。
 ベッドから出て着替えたが、リビングにはいかず、お腹が鳴るのを我慢しながら『だからお前はダメなんだよ!』を印刷し、読み返して誤字脱字を直した。
 しかし、前回のように妻に見せようとは思わなかった。
 また〈砂を噛むよう〉な思いはしたくなかったからだ。
 
 昼食を食べるとすぐに自室に籠って、あの時の妻の言葉を思い浮かべた。
 すると、表情と共に蘇ってきた。
 
「これって、何が言いたいの?」
「読者に伝えたいことは何?」
「主題と言い換えてもいいんだけど、何を訴えたいの?」
「事実を書いているだけでは小説とは言えないと思うの。その裏側にある登場人物の内面を描かないと何も伝わってこないと思うの」
「葛藤とか悩みとか色々な心情があるでしょう? それが書いてあるから読者は物語に惹き込まれるし、登場人物に思いを寄せることができるのよ」
「次はそういうことを考えながら書いてみて。そうすれば小説らしくなると思うわよ」

 う~ん、
 唸るしかなかった。
 妻の言っていることはなんとなくわかるが、登場人物の内面や思いを表現するのは簡単にできることではなかった。
 今の自分にはレベルが高すぎるとしか思えなかった。
 う~ん、
 その日は唸るだけで終わってしまった。


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