人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
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 新俱留(しんぐる)真座美(まざみ)は未婚の母だった。
 スナックで接客の仕事をしながら、3歳の女の子と二人で暮らしていた。
 子供の名前は早生子(わせこ)
 利発な子供だった。
 頭の回転が速く、普通の子供よりもかなり早く言葉をしゃべり始めた。
 幼稚園に通い出してからは色々なことに興味を持った。
 その一つが父親のことだった。
 友達にはパパがいるのに自分にはいないことをしきりに不思議がった。
 
「ヨッコちゃんちのパパはね、いっつも肩車してくれるんだって。それにね、」
 羨ましそうな顔になった。
「パパとママがブランブランしてくれるんだって」
 片手を父親が、その反対の手を母親が持って、空中でヨッコちゃんの体を前後に揺らすことを言っているらしい。
「早生子もしたい」
 駄々をこねて半泣きになった。
「ごめんね」
 早生子を抱きしめた真座美の目が真っ赤になった。
 父親に会わせることができない境遇にしてしまった自らの過ちに唇を噛んだ。
 
 OLとして働いていた頃、上司が好きになった。
 しかし、彼は結婚していた。
 それでも諦め切れず、自分から誘って不倫関係になった。
 人目をはばかりながらホテルで逢瀬(おうせ)することしかできなかったが、それでも幸せだった。
 ところが、酔った勢いで抱かれたあと、望まない妊娠をしてしまった。
 そのことを告げると彼の態度が一変し、「堕ろせ」と睨まれた。
 真座美は即座に「嫌よ」と言った。
 すると、「産んでも絶対に認知はしない」ときつい口調で言われた。
「お前が誘ってきたのだからお前がなんとかしろ」とも言われた。
そして、その次に会った時、手切れ金を渡された。
封筒に50万円入っていた。
それだけでなく、「会社を辞めてくれ」と冷たく突き放された。
その場は拒否したが、大きくなっていくお腹を隠し切れないようになると、真座美は泣く泣く会社を辞めた。

 一人で子供を産んだあとは、生活のためにスナックで働き始めた。
 そんなふうだったから、父親の話は口が裂けても言えなかった。
 しかし、早生子は父親のことを知りたがった。
 それだけでなく、幼稚園から帰る度に友達の父親の話をした。
 そして、「パパと遊びたい」とべそをかいた。
 
 父親のことを言えない真座美は一人二役をするしかなかった。
早生子を公園に連れて行く度に一人でブランブランさせた。
早生子の両手を持って自分の股の間を前後させるのだ。
しかし、小柄で非力な真座美はそれを何回もすることができなかった。
「もう一回」
 そうねだる早生子に、「ケーキ食べに行こ」と機嫌を取ることしかできなかった。

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