人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
「素敵なところね」
 初めてこの店に来た妻が店内を見渡した。
「雰囲気がいいだろう」
 わたしも見慣れた店内を見渡した。
「ジャズノート青山って、お店の名前に地名がついているということは、他にもお店があるの?」
「そうなんだ。本店はニューヨークにある」
「ニューヨーク? アメリカの?」
「そう。ジャズのメッカ、ニューヨークの老舗ジャズ・クラブが『ジャズノート』なんだ。そこは1981年の開業なんだけど、それから7年後にこの店がオープンしたんだ。だから、今年で30周年」
「へ~。ということは、このお店にとって記念の年なのね」
「そう。それにわたしたち二人にとってもね」
 すると、〈そうね〉というように妻が笑った。

 学生時代の夢、レコード会社への就職は叶わなかったが、音楽への愛情は増していた。
 ロックからクロスオーヴァーへ、そして、フュージョンになり、今はスムーズジャズにハマっている。
 会社人生を全うすることができたのは、妻の支えに加えて、音楽の存在があったからだと思っている。
 特にこの店は、辛い時、投げやりになりそうな時、わたしに寄り添ってくれた。
 ライヴ終了後、この店を出る時は、いつも笑顔になれた。
 エネルギーを貰えた。
 退職する日にこの店を選んだのは、店への感謝の気持ちがあったからだ。
 
 
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