人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 デザートのあと、わたしはコーヒー、妻は紅茶を頼み、ほぼ飲み終わった頃、会場の灯りが暗くなった。
 と同時に、拍手が起こった。
 本日の主役が登場したのだ。
 世界的人気を誇るシンガー&ピアニストだった。
 
 彼女にスポットライトが当たると、それを合図にしたようにピアノを弾き始め、響くような低音に連れられて歌が始まった。
『Every Time We Say Goodbye』
 1930年代にコール・ポーターという傑出したコンポーザーが発表したバラード・ナンバー。
 彼女はしっとりと、そして、艶やかに歌い上げる。
 ピアノを弾く彼女の姿が美しい。
 
 弾き語りがもう1曲続いた。
『Lush Life』
 物憂げに、切なく、どこか自虐的に、彼女のハスキーな声がピアノと戯れる。
 曲が終わった時、会場からはため息が漏れ、静かに始まった拍手が次第に大きくなっていった。
 それに応えて彼女が椅子から立ち上がって軽く頭を下げると、サテンのロングドレスが(まばゆ)く揺れた。
 
 
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