人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 退職して1週間後、思いがけないことが起こった。
 大きな荷物が届いたのだ。
 女性社員からだった。
 マタハラ被害から復帰したあの女性社員。
 
 箱を開けると、一番上に手紙が置かれていた。
 手に取ってハサミで封を開けると、そこには衝撃的なことが書かれていた。
 最終出社日前日にわたしが定時で会社を出たあと、支社長から厳しい通達が出たというのだ。
 三木田の出社最終日にはなんの反応もするなと。
 もしすれば、それ相応の厳しい処分をするからと。
 だから、社員は全員、仕事をする振りをせざるを得なかったというのだ。
 
 信じられなかった。
〈そこまでするか〉と怒りが湧いてきた。
 終わったこととはいえ、(はらわた)が煮えくり返った。
 しかし、ぶつける相手がいなかった。
 手紙に八つ当たりしても仕方がないのだ。
 頭の中で支社長に後ろ回し蹴りをかませて終わらせた。
 
 それでも心を落ち着かせるために一度深呼吸をして続きを読んだ。
『送別会ができなかったので、全員でお金を出して世界一のシャンパンを贈ることにした』と書いてあった。そのあとに『三木田支社長は世界一の支社長ですから』という言葉が添えてあった。
 泣きそうになった。
 
 手紙を置いて包装された箱を手に取った。
 リボンが付いた華やかな包装紙を見ただけで特別なシャンパンだとわかった。
 こんな高価なものを……、
 包装紙の上に涙が落ちた。
 一つでは終わらなかった。
 右手で拭ってから手紙を取り、続きを読んだ。
 
 
 
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