人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 翌日の夕方、アルバイトから返ってきた妻は、躊躇いが消えたような表情で「もうしばらく続けるわ」と言った。
 そして、「変だと思うかもしれないけど」と継いで、毎日本の整理をしているとタイトルや表紙を見るだけで秀作かどうかわかるようになったのだと言った。
「5年も続けているとね、なんとなくわかるようになるの。私より長く勤めている人もそう言ってた。本がね、私に呼び掛けているように感じるの。『ほら、ここに素晴らしい小説がありますよ』って」
 そうなんだ……、
 その感覚はよくわからなかったが、ちょっと羨ましい気がした。
「それと、あなたの応募作を読んで感想を言うためにも、私自身が優れた読者でいなければいけないでしょう。だから、応募作が完成するまでは続けた方がいいかなって思って」
 今度はちょっとグッと来た。
 まだ新人賞に応募するための小説を書き始めてはいなかったが、妻のためにも受賞できるレベルの小説を書きたいと心底から思った。


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