人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 そんな辛い思いを打ち消したかったこともあり、わたしは一層仕事に精を出すようになった。
 脇目も振らず働いた。
 東京支社長になってからは仕事にすべてを捧げた。
 24時間働く男になっていったのだ。
 
 一方、妻は専業主婦を続けていたので、朝わたしを会社に送り出したあと、掃除や洗濯、買い物が済めば、することがなくなっていたのではないだろうか。
 わたしの帰宅が深夜になることが多かったから、長時間一人で過ごしていたことになる。
 その間、何をしていたのだろう? 
 子供がいないし、ママ友もいないから誰とも話す機会がないはずだ。
 買い物の時に一言二言話すくらいだろう。
 それ以外の時間は読書やテレビで時間を潰していたのだと思うが、わたしにはわからない。
 そんなことを気にかけたこともなかった。
 それどころか、気楽な主婦稼業としか思っていなかった。
 でも、そんなわけはないに決まっている。
 今頃気づいても遅すぎるが、毎日、昼食と夕食を一人で食べて、眠い目をこすりながらわたしの帰りを待って、わたしが夕食を食べ終えるのをじっと見てて、そのあと台所で片づけをして、わたしが求めれば夜の営みを受け入れてくれた。
 それが当たり前と思っていたが、実際に妻はどんな思いで毎日を過ごしていたのだろうか? 
 わたしには何もわからない。
 愚痴もなんにも言わなかったし、わたしの心の中はほとんど仕事で埋め尽くされていたから、今まで一度もこんなことを考えたことはなかった。
 寂しかったのだろうな……、
 そう思うと切なくなった。


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