人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 帰国したわたしたちを待っていたのは、雪景色だった。
 数十年ぶりの大雪に、首都圏の交通はマヒしていた。
 懸命な除雪作業のお陰で成田空港へ着陸することはできたが、その後の移動手段が無かった。
 空港近くのホテルを探したが、すべて満室だった。
 ラウンジもいっぱいで入れなかった。
「どこか空いている所を探そう」
 当てもなく空港内を歩き続けたが、なんとか二人が座れるスペースを見つけたのは、空港到着後1時間近く経った頃だった。
 狭いスペースに身を寄せて座った。
 
「疲れたね」
 足をさすりながら妻が頷いた。
 それでも、この2週間を振り返るように、「でも、楽しかったわ」と笑みを浮かべた。
「楽しかったね、本当に」
 目を閉じると、アンスバタのビーチが浮かんできた。
 青い海と青い空、心地よい風、止まったような時間、フランボワイヤンの燃えるような赤い花、そして、妻のしぐさ、妻の笑顔、人生最高のひと時だった。
 
 目を開けると、妻があくびを堪えていた。
 疲れているのだろうと思って自分の太腿を指差すと、妻は頷いて、わたしの太腿に頭を乗せた。
 体を二つ折りにして小さくなって。
 
 しばらくすると、微かに寝息が聞こえてきた。
 わたしは妻の肩から腕をそーっとさすった。
 予想外に細かった。
 今まで気づかなかったが、こんなに細いとは思わなかった。
 ふと、結婚した時のふくよかな妻が思い浮かんだ。
 苦労かけたね……、
 呟くと、いきなり切なくなり、目頭が熱くなった。
 そして、後悔が涙となり、妻の髪に吸い込まれていった。
 とほぼ同時に太腿が何かを感じた。
 妻の肩がかすかに震えていた。
 
 
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