人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 何十年振りかの手漕ぎボートだった。
 池の中央に出ると、カルガモが2羽寄ってきた。
 つがいだろうか? 
 仲睦まじそうに寄り添っていた。
〈彼らに離婚という言葉はないんだろうな〉と思うと、羨ましくなった。
 しかし、鳥に嫉妬しても仕方がないので、頭を振ってボートを進めた。
 すると、可愛い水鳥が目に入った。
 カイツブリだ。
 それも一羽や二羽ではない。
 子育て中らしく、掌にすっぽり収まりそうな小さな四羽のヒナが必死に親を追いかけていた。
 
 いきなり親が潜った。
 すると、浮上してくるところを探すかのようにヒナたちがキョロキョロと辺りを見回し始めた。
 つられてわたしもじっと水面に目を凝らせた。
 その時、ヒナたちの5メートルほど先で親が姿を現した。
 (くちばし)になにかくわえている。
 小さな魚のようだった。
 最初に見つけたヒナがダッシュを始めると、他のヒナも必死に追った。
 しかし、先頭のヒナが親から餌を貰うと、親はまた水の中に姿を消した。
 餌にあぶれたヒナたちはピヨピヨと声を出した。
〈お腹がすいたよ〉と言っているみたいだった。
 空腹のまま眠るヒナもいるのだろうかと思うと、厳しい競争の世界を突き付けられたような感覚になった。
 野性に平等という言葉はないのだ。
 強いものだけ生き残るのだ。
 
 
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