人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 公園から真っすぐ家に戻る気が起きなかったので、最寄り駅の居酒屋に入った。
 時間が早いせいか、席は三分の一ほどしか埋まっていなかった。
 冷奴と板わさと生ビールを頼んだあと店内を見渡すと、自分以外に一人客は誰もいなかった。
 急に寂しくなった。
 そのせいで、隣駅に住んでいる学生時代からの友人に電話をかけた。
「夕食がまだだったら来ないか」と誘うと、「ちょっと待って」と言って誰かと話し始めた。言葉は聞き取れなかったが、奥さんに何か言っているような感じだった。
 少しして彼の声が戻ってきた。
「今からすぐ行く」
 返事をする間もなく、電話が切れた。
 
 30分ほどして彼がやってきた。
 わたしは2杯目を飲み干したところだった。
「急に悪かったな」
 謝ると、彼は右手を横に振った。
「いや、丁度良かった」
 彼は店員を呼んで、生ビールとタコ酢とモズクを頼んだ。
 丁度良かった、という彼の言葉が気になったが、取り敢えず乾杯をすることにした。
 一口飲んで彼が怪訝そうな表情を浮かべた。
「ところで、どうかしたのか?」
「ん、ちょっと……」
 どう話していいかわからなかった。
 それに、もう少しお酒が必要な気がした。
 わたしはジョッキを一気に飲み干して、4杯目を頼んだ。
 彼は心配そうな表情を浮かべていたが、何も言わず、モズクをすするように食べた。
 
「実は……」
 4杯目を半分ほど飲んでから妻とのことを話した。
 うまく伝えられたかどうかわからなかったが、事実をすべて話した。
 
「そうか……」
 友人は三分の一ほど残っていたビールを飲み干して、お代わりを頼んだ。
 それは、わたしの話を受け止めるために必要なアルコールを補充するかのようだった。
 
「そうか……」
 同じ言葉を呟いて、ゆらゆらと首を横に振った。
「俺のところもな」
 タコ酢に箸を伸ばした。
 しかし、タコとキュウリを(つつ)いただけで口に入れることはなかった。
「よろしくないんだ」
 箸を置いて、両手で鼻を覆った。


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