人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
新しいジョッキが運ばれてくると、彼は右手で取っ手を握って三分の一ほどを一気に流し込んだ。
そして、テーブルにジョッキを置いて、右手で口を拭った。
「もう10年以上夫婦関係がない」
わたしに目を合わさず、辛そうな声を漏らした。
見ると、口元が歪んでいた。
わたしは彼の横顔を見つめたまま身動きできなくなった。
わたしから見れば彼らは理想の夫婦だった。
わたしより5センチ以上背が高くて引き締まった体型の彼は憧れるほどのいい男だったし、愛らしい丸顔とグラマラスな体形をした奥さんは魅力的だった。
セックスライフはさぞ楽しいだろうなと勝手な想像をしたことが何度もあったほどだ。
そんな彼らが10年以上も夫婦関係がないとは信じられなかった。
「最近は食事の時に会話もないんだ」
仮面夫婦という言葉が思い浮かんだ。
「子供がいれば違っていたかもしれないけどな」
タコ酢を口に入れて二度三度噛んだ。
そして、それを流し込むようにジョッキを傾けた。
それから、〈ふ~〉と息を吐いてわたしに視線を向けた。
「お前のところもないのか?」
急に話を振られたのでちょっとむせた。
「ないことはないけど、まあ、それなりに」
「そうか」
また視線を外した。
そして、何度も首を横に振った。
わたしは、彼が店に来た時に言った「丁度良かった」という言葉の意味がわかったような気がした。
会話のない気まずい夕食をパスしたかったのだ。
それにしてもまだ信じられなかった。
お似合いの夫婦だと思っていた彼らがこんなことになっていたなんて。
「こんなことを訊いていいかどうかわからないけど……」
今度はわたしが視線を外す番だった。
「なんだ?」
彼の視線を横顔に感じてちょっと躊躇ったが、言葉が出ていくのを止められなかった。
「浮気でもしたのか?」
すぐに返事は返ってこなかった。
「いや」という弱々しい声が耳に届いたのは少ししてからだった。
「じゃあ……、もしかして……」
「いや、そんなことはない」
奥さんの浮気を即座に否定した。
「じゃあ、どうして……」
視線を戻すと、彼は首をゆらゆらと振っていた。
「俺にもわからん」
いつの頃からか、セックスはもとより体に触れることもキスをすることも拒否されるようになったのだという。
しかし、どんなに考えても理由がわからないのだという。
「でも、何か原因があるだろう」
自分のためにも原因が知りたかった。
「う~ん」
右肘をテーブルについて掌の上に顔を乗せた。
そして、左手の中指でトントントンとテーブルを叩いた。
それから、ボソッと呟くように言った。
「求め過ぎたのかもしれない……」
右の掌で両目を覆った。
求め過ぎか……、
わかるような気がした。
あの奥さんなら誰だって毎日したくなる。
奥さんだって嫌いなわけはないだろう。
しかし、〈夫の目当てが自分の体だけ〉と奥さんが思い込むようになったとしたらどうなるだろうか?
多分、堪えられなくなるだろうし、苦痛に感じるようになるかもしれない。
20代や30代ならまだしも、40代以降になると、単なる行為としてのセックスを受け入れることは難しくなるかもしれない。
わたしはふと50歳の誕生日の時のことを思い出した。
そして、テーブルにジョッキを置いて、右手で口を拭った。
「もう10年以上夫婦関係がない」
わたしに目を合わさず、辛そうな声を漏らした。
見ると、口元が歪んでいた。
わたしは彼の横顔を見つめたまま身動きできなくなった。
わたしから見れば彼らは理想の夫婦だった。
わたしより5センチ以上背が高くて引き締まった体型の彼は憧れるほどのいい男だったし、愛らしい丸顔とグラマラスな体形をした奥さんは魅力的だった。
セックスライフはさぞ楽しいだろうなと勝手な想像をしたことが何度もあったほどだ。
そんな彼らが10年以上も夫婦関係がないとは信じられなかった。
「最近は食事の時に会話もないんだ」
仮面夫婦という言葉が思い浮かんだ。
「子供がいれば違っていたかもしれないけどな」
タコ酢を口に入れて二度三度噛んだ。
そして、それを流し込むようにジョッキを傾けた。
それから、〈ふ~〉と息を吐いてわたしに視線を向けた。
「お前のところもないのか?」
急に話を振られたのでちょっとむせた。
「ないことはないけど、まあ、それなりに」
「そうか」
また視線を外した。
そして、何度も首を横に振った。
わたしは、彼が店に来た時に言った「丁度良かった」という言葉の意味がわかったような気がした。
会話のない気まずい夕食をパスしたかったのだ。
それにしてもまだ信じられなかった。
お似合いの夫婦だと思っていた彼らがこんなことになっていたなんて。
「こんなことを訊いていいかどうかわからないけど……」
今度はわたしが視線を外す番だった。
「なんだ?」
彼の視線を横顔に感じてちょっと躊躇ったが、言葉が出ていくのを止められなかった。
「浮気でもしたのか?」
すぐに返事は返ってこなかった。
「いや」という弱々しい声が耳に届いたのは少ししてからだった。
「じゃあ……、もしかして……」
「いや、そんなことはない」
奥さんの浮気を即座に否定した。
「じゃあ、どうして……」
視線を戻すと、彼は首をゆらゆらと振っていた。
「俺にもわからん」
いつの頃からか、セックスはもとより体に触れることもキスをすることも拒否されるようになったのだという。
しかし、どんなに考えても理由がわからないのだという。
「でも、何か原因があるだろう」
自分のためにも原因が知りたかった。
「う~ん」
右肘をテーブルについて掌の上に顔を乗せた。
そして、左手の中指でトントントンとテーブルを叩いた。
それから、ボソッと呟くように言った。
「求め過ぎたのかもしれない……」
右の掌で両目を覆った。
求め過ぎか……、
わかるような気がした。
あの奥さんなら誰だって毎日したくなる。
奥さんだって嫌いなわけはないだろう。
しかし、〈夫の目当てが自分の体だけ〉と奥さんが思い込むようになったとしたらどうなるだろうか?
多分、堪えられなくなるだろうし、苦痛に感じるようになるかもしれない。
20代や30代ならまだしも、40代以降になると、単なる行為としてのセックスを受け入れることは難しくなるかもしれない。
わたしはふと50歳の誕生日の時のことを思い出した。