人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 同時に新たな提案のための準備を進めた。
『おでんカレー』だ。
 おでんとカレーの組み合わせという今までにないアプローチだった。
 それは開発研究所出身の男性社員が発した何気ない一言から始まった。
「あのカレールーを使えないかな?」

 開発研究所では、全社員から新製品の提案を募るために『新製品アイディアコンテスト』という大会を年に1回開催していた。
 そこで銅賞を獲得したのが『おでんカレー』だった。
 提案者は人事部の女性社員。
 彼女は前日の余ったおでんを翌日食べるためにカレーの中に入れて煮込んでいたのだが、それを子供たちが喜んで食べることから、おでんの新たな可能性を感じて応募したらしい。
 その中にはおでんに合う専用のカレールーの開発が明記されていた。
 その専用カレールーの開発を担当したのが、元研究所員の彼だった。
 
「フルーツ味のカレールー、キムチ風味のカレールーなど色々試しましたが、私が一番合っていると思ったのが麺つゆ風味のカレールーでした」

 それを完成させ、研究所で試食会を開いたところ大好評で、これならいけると経営陣にアプローチすることになった。
 それで役員試食会を開いたところ、狙い通り多くの役員が美味い美味いと完食した。
 しかし、一人だけ顔をしかめていた役員がいた。
 社長だった。
 彼は「邪道だ」と言い捨てて席を立った。
 
「何が気に入らなかったのかよくわかりませんが、社長以外の役員からは褒めてもらいました。絶対イケると思います」

 レシピが残っているからいつでも作れると言うので、そのカレールーを再現して試食したところ支社員に大好評だった。
 これはイケると判断し、本社の常務と製造担当役員に掛けあった。
 二人共おでんカレーを試食して美味しかったことを覚えており、また、新規の設備投資が必要ないことも幸いし、小ロットから製造を始めることを条件にOKを出してくれた。


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