人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 発売したら大評判。
 予想以上のヒットになった。
 工場は本格生産を開始し、販路を全国に拡大することになった。
 その結果、東京支社だけでなく、全社の売り上げがリーマン・ショック前の状態に戻ろうとしていた。
 
 しかし、またもや想像を絶する逆流が押し寄せてきた。
 東日本大震災だった。
 未曾有の災害によって物流や商流が壊滅的な打撃を受けた東北や関東では商売どころではなかった。
 取引先の店舗は崩壊し、棚に並んでいた商品は水に浸かったり潰れたりして、使い物にならない状態だった。
 そんな状態なので店舗の営業再開までに相当な時間が必要だったし、その間にも小売店から返品と補償の依頼が日を追って増えていった。
 そのことを相談すると本社は渋ったが、信頼という観点と人道的な側面から必要と独断し、罹災品と正常な製品との交換に踏み切った。
 
 一方、食品の家庭内在庫が底をつき始めると、まだ気温が低いこともあって〈温かいおでん〉に対する需要が高まり、それによって想定外の事態に直面した。
 
 当社は主力工場が関西に集中していたので生産能力にはほとんど影響を受けなかったが、関東や東北に工場を持っている他社は稼働できず、需要への対応が困難になった。
 その分が当社に回ってきた。
 一瞬にしててんてこ舞い(・・・・・・)の状態になり、注文が製造能力を上回るようになったため、在庫が急激に減り始め、取引先からの注文に応えることができなくなった。
 すべての工場でフル生産を続けたが、需要に供給が追いつくことはなかった。
 
 しかし、急ピッチの修理や再建によって他社の工場が再稼働を始めると、一転して供給過剰の状態になり、当社の倉庫に在庫が溜まり始めた。
 生産調整が必要になると、生産能力を増強していた工場の稼働率が落ちていった。
 
 需要と供給の乱高下が会社を翻弄するだけでなく、先の見えない不安が社員の心を落ち着かなくしていた。


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