人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
 わたしも辞めようか……、
 乾が会社を去ってから何度もそう思った。
 思い返せば、契約社員の待遇改善や正社員登用、日報のイントラネットシステム、そして、おでんカレーなど、東京支社発のアイディアは次々と全社で採用され、会社業績に大きな貢献を果たした。
 それなのにこの仕打ちはなんだ!
 余りにも酷すぎる!
 もう限界だ!
 こんな会社見切りをつけてやる! 
 啖呵(たんか)を切って辞めることを何度も考えた。
 しかし、60歳を目前にしたわたしが転職したとしても、ろくな仕事がないということはよくわかっていた。
 ましてや、履歴書を見れば支社長から専任課長に降格されたことが誰にでもわかる。
 下げ潮の人間をわざわざ採用する会社はないだろう。
 といって、このまま会社に居てもまともな仕事を与えられるわけがない。
 本社から送り込まれる後任の支社長はわたしの影響力を警戒して、社員と接触する機会を極力無くすようにするに違いない。
 どう考えても、まともな仕事は与えられそうになかった。
 
 でも、そうなったらわたしはなんと呼ばれるのだろうか? 
 窓際族? 
 壁際族? 
 隔離族? 
 不要族? 
 目障り族? 
 …………?
 辞めるのも地獄だし、残るのも地獄に違いなかった。
 悶々としたまま日夜が過ぎていった。
 
 
 
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