人生 ラン♪ラン♪ラン♪ ~妻と奏でるラヴソング~ 【新編集版】
そんなある日、本社の人事部長から電話がかかってきた。
抑揚のない声でわたしの名前を呼んだと思ったら、信じられないことを言い出した。
「まもなく60歳で定年を迎えられることになりますが、退職されますか?」
聞いた瞬間、意味がわからなかった。
〈退職されますか〉ってどういうこと?
それにそんな言い方ってあるの?
わたしは固まったまま受話器を握り続けた。
なんにも言わないわたしに業を煮やしたのか、また抑揚のない声が耳に届いた。
「もしかして、定年延長を選ばれますか?」
まさかそんなことは考えていないでしょうね、というような響きだった。
辞めさせる方向へ追い込んでいくような言い方だった。
ここまで酷いことを言われると思っていなかったわたしは、唖然として口が開きっぱなしになっていた。
「どうなんですか?」
感情のない声が耳に飛び込んできた。
〈黙っていないでなんとか言え〉というような圧迫感を感じた。
「どうといわれても……」
それだけ言うのが精一杯だった。
「そうですか」
それだけ言って彼は沈黙した。
無言の圧力を続けるかのようだった。
わたしが音を上げるのを待っているとしか思えなかった。
「あの~」
返事はなかった。
「もしもし」
またしても返事はなかった。
「少し考えさせてください」
返事を待たずに受話器を置いた。
抑揚のない声でわたしの名前を呼んだと思ったら、信じられないことを言い出した。
「まもなく60歳で定年を迎えられることになりますが、退職されますか?」
聞いた瞬間、意味がわからなかった。
〈退職されますか〉ってどういうこと?
それにそんな言い方ってあるの?
わたしは固まったまま受話器を握り続けた。
なんにも言わないわたしに業を煮やしたのか、また抑揚のない声が耳に届いた。
「もしかして、定年延長を選ばれますか?」
まさかそんなことは考えていないでしょうね、というような響きだった。
辞めさせる方向へ追い込んでいくような言い方だった。
ここまで酷いことを言われると思っていなかったわたしは、唖然として口が開きっぱなしになっていた。
「どうなんですか?」
感情のない声が耳に飛び込んできた。
〈黙っていないでなんとか言え〉というような圧迫感を感じた。
「どうといわれても……」
それだけ言うのが精一杯だった。
「そうですか」
それだけ言って彼は沈黙した。
無言の圧力を続けるかのようだった。
わたしが音を上げるのを待っているとしか思えなかった。
「あの~」
返事はなかった。
「もしもし」
またしても返事はなかった。
「少し考えさせてください」
返事を待たずに受話器を置いた。