トリックオアトリートな同期の日樫くんがあまくなる夜
 ラッキー、と頬張る彼を見て、私は苦笑する。
 営業成績一位、それも当然だと思う。彼はイケメンな上にコミュ強。人好きのする笑顔で語られたら、誰だって契約してしまうと思う。

 一方の私は愛嬌がなくて暗くて、彼の対極にいる。
 彼のような明るい人のほうが万人受けするのはわかってる。彼のことは羨ましい、だからといって彼みたいにはなれない。

「仕事、無理すんなよ」
 頭をぽんと叩いて彼は離れる。
 もう、なんで気軽にそういうことできちゃうかな。

 彼の後ろ姿を目で追うと、お疲れ、と近くの女子社員に挨拶しながら自席に戻る姿が見えた。
 彼女が目をハートにしていることにはまったく気づいてない。

 罪作りな男だ。
 そうして、私もまた彼に罪を背負わせているひとりだ。
 平たく言うと恋をしている。
 はあ、とため息をついてパソコンを見る。

 入社したときから彼は目立っていた。
 緊張した私たち同期に話しかけ、笑わせ、緊張を和らげてくれた。
 同じ部署に配置になったときには胸が高鳴った。
 優秀な彼を見て、彼みたいになりたいと仕事を頑張った。
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