トリックオアトリートな同期の日樫くんがあまくなる夜
「今晩、一緒に食事に行きませんか?」
 金本さんの言葉に、私はお茶を噴きそうになった。
 さっき私に仕事を押し付けたのに、聞こえる距離で誘うなんて、そんなことある!?

「悪い、先約あるから」
 彼はにこっと笑って去っていった。
 彼の断り方はとても軽やかで、私はそれも羨ましい。あんなに軽いと断られてもショックを受けなくて済む気がする。

 私も仕事を頼まれたときにやってみようか。
 ごめん、先約あるから無理。
 そう言って笑って断る……のはやっぱり難しそうだ。

 ただ真面目に一生懸命に。
 それだけしか取り柄がない。愛想よくするなんて無理。

 ああ、ダメだ。ネガティブモードになってしまう。
 私は引き出しからチョコレートを取り出して口に放り込み、仕事を続けた。



 定時を過ぎたらどんどん人が減っていく。
 ハロウィンだから友人や恋人、家族と約束がある人が多いようだった。

 金本さんも定時になったらにこにこと帰っていった。日樫くんに断られたからといって、やっぱり仕事しますとはならないようだ。

 私は必死に彼女の仕事をした。今日中と言っていたから、時計を見る余裕もなくパソコンに向かう。
< 5 / 16 >

この作品をシェア

pagetop