小さな恋のトライアングル
「今まで、両親にも潤にも話してなかったわよね。岳の父親のこと」
「ああ。姉貴、言いたくなさそうだったし、聞かない方がいいと思ったから」
「ありがとう。でも、もう私一人では抱え切れなくなったの。両親にもいずれ報告するけど、まずは潤と、それから岳が誰よりも信頼してる真美ちゃんに相談させて」
潤と真美は真剣に頷く。
都は少し視線を落としながら、ゆっくりと口を開いた。
「岳の父親とは、仕事関係の祝賀会で知り合ったの。私が勤めてたジュエリーブランドが入ってる、老舗デパートのパーティーだったわ。その日は軽く挨拶して別れたんだけど、後日そのデパートに仕事で顔を出した時に偶然ばったり再会して、ランチでもって一緒にお昼を食べたのよ。そこからつき合うようになった。もうかれこれ、7年も前のことよ」
そう言って都は、ソファで眠っている岳を見つめる。
「彼は私を大切にしてくれる人で、私もこの人ならって思ったわ。プロポーズされて、イエスの返事をした。両家の両親に挨拶に行くことになって、まずは私が彼の実家に伺った。そこで全てが変わったの」
寂しそうな目をする都に、真美は膝の上に置いた両手をギュッと握りしめた。
「彼に連れられて着いた実家は、とんでもなく大きなお屋敷だったの。彼、自分は商社マンで実家は自営業だって言ってたけど、そんな普通のイメージなんかじゃない。その時ようやく気づいたの。彼の名字、三原が何を意味するかって」
「三原……?って、まさか!三原ホールディングスか?!」
驚きを含んだ潤の言葉に、都は少し笑って頷いた。
(三原ホールディングス?!日本のホールディング企業トップファイブに入る、あの三原?)
思ってもみなかった話の展開に、真美も半ば呆然とする。
「そこから先は、まあ、想像つくでしょう?案の定、彼のご両親とお祖父さんは大反対よ。それにあの時、三原ホールディングスは株価が下落して大変な経営難に陥っていた。彼のお父さんとお祖父さんは、彼をメガバンクの頭取のお孫さんと結婚させるつもりだったの。融資を受ける為にね。とまあ、そういう訳。さすがの私も、これは無理だなって。彼はその場で何度も、勘当されても都と結婚すると宣言してくれたわ。だけど私は決めた。このお話はなかったことにさせていただきますって、頭を下げてお屋敷を出たの」
「お姉さん……」
どんなに辛い瞬間だったのだろうと、真美は思わず涙ぐんだ。
「それで良かったのよ。私なんかがそんなご立派なおうちに嫁いだって、大変なだけでしょう?だからきっぱり諦めた。携帯も変えて、引っ越して、勤め先も退職した。完全に彼との連絡手段を断ったの。デザイン画をたくさん描いてコンテストに応募して、今の会社に雇ってもらえた。しばらくして気づいたの。岳がお腹の中にいることに」
潤と真美は言葉も出ない。
そんな壮絶な日々を、都がたった一人で乗り越えていたとは。
潤は自分の不甲斐なさにグッと奥歯を噛みしめた。
「あまりにバタバタしていたから、食欲がないのもそのせいだと思って、なかなか妊娠まで考えがたどり着かなかった。だけど産婦人科でエコーを見た瞬間、嬉しくて涙が止まらなくなったの。神様は私を見捨てなかった、こんなにも素晴らしい宝物を授けてくださったんだって。それからは一気に幸せな毎日になったわ。もちろん大変なこともあったけど、岳がいてくれて、ほんとに毎日が楽しいの」
そう言って愛おしそうにソファの岳を見つめる都の言葉に、嘘はないのだろう。
潤と真美もようやく表情を和らげた。
「ああ。姉貴、言いたくなさそうだったし、聞かない方がいいと思ったから」
「ありがとう。でも、もう私一人では抱え切れなくなったの。両親にもいずれ報告するけど、まずは潤と、それから岳が誰よりも信頼してる真美ちゃんに相談させて」
潤と真美は真剣に頷く。
都は少し視線を落としながら、ゆっくりと口を開いた。
「岳の父親とは、仕事関係の祝賀会で知り合ったの。私が勤めてたジュエリーブランドが入ってる、老舗デパートのパーティーだったわ。その日は軽く挨拶して別れたんだけど、後日そのデパートに仕事で顔を出した時に偶然ばったり再会して、ランチでもって一緒にお昼を食べたのよ。そこからつき合うようになった。もうかれこれ、7年も前のことよ」
そう言って都は、ソファで眠っている岳を見つめる。
「彼は私を大切にしてくれる人で、私もこの人ならって思ったわ。プロポーズされて、イエスの返事をした。両家の両親に挨拶に行くことになって、まずは私が彼の実家に伺った。そこで全てが変わったの」
寂しそうな目をする都に、真美は膝の上に置いた両手をギュッと握りしめた。
「彼に連れられて着いた実家は、とんでもなく大きなお屋敷だったの。彼、自分は商社マンで実家は自営業だって言ってたけど、そんな普通のイメージなんかじゃない。その時ようやく気づいたの。彼の名字、三原が何を意味するかって」
「三原……?って、まさか!三原ホールディングスか?!」
驚きを含んだ潤の言葉に、都は少し笑って頷いた。
(三原ホールディングス?!日本のホールディング企業トップファイブに入る、あの三原?)
思ってもみなかった話の展開に、真美も半ば呆然とする。
「そこから先は、まあ、想像つくでしょう?案の定、彼のご両親とお祖父さんは大反対よ。それにあの時、三原ホールディングスは株価が下落して大変な経営難に陥っていた。彼のお父さんとお祖父さんは、彼をメガバンクの頭取のお孫さんと結婚させるつもりだったの。融資を受ける為にね。とまあ、そういう訳。さすがの私も、これは無理だなって。彼はその場で何度も、勘当されても都と結婚すると宣言してくれたわ。だけど私は決めた。このお話はなかったことにさせていただきますって、頭を下げてお屋敷を出たの」
「お姉さん……」
どんなに辛い瞬間だったのだろうと、真美は思わず涙ぐんだ。
「それで良かったのよ。私なんかがそんなご立派なおうちに嫁いだって、大変なだけでしょう?だからきっぱり諦めた。携帯も変えて、引っ越して、勤め先も退職した。完全に彼との連絡手段を断ったの。デザイン画をたくさん描いてコンテストに応募して、今の会社に雇ってもらえた。しばらくして気づいたの。岳がお腹の中にいることに」
潤と真美は言葉も出ない。
そんな壮絶な日々を、都がたった一人で乗り越えていたとは。
潤は自分の不甲斐なさにグッと奥歯を噛みしめた。
「あまりにバタバタしていたから、食欲がないのもそのせいだと思って、なかなか妊娠まで考えがたどり着かなかった。だけど産婦人科でエコーを見た瞬間、嬉しくて涙が止まらなくなったの。神様は私を見捨てなかった、こんなにも素晴らしい宝物を授けてくださったんだって。それからは一気に幸せな毎日になったわ。もちろん大変なこともあったけど、岳がいてくれて、ほんとに毎日が楽しいの」
そう言って愛おしそうにソファの岳を見つめる都の言葉に、嘘はないのだろう。
潤と真美もようやく表情を和らげた。