小さな恋のトライアングル
「で!ここからがようやくお待ちかねのジェットコースターな展開よ」
真顔ながらふざけた口調で、都は人差し指を立てる。
「なんと!今の会社に私宛で彼からメールが届いたの。どうやら、私がクリスマスジュエリーの販売の様子を見に、店舗に顔を出したところを偶然見かけたらしくて。彼ったらあの後、頭取のお孫さんとは結婚せずに、自力で経営を立て直してずっと私を探してたって言うの。私は株が持ち直したのをニュースで知って、てっきり政略結婚したものだとばかり思ってたからびっくりよ。彼、都なら必ずジュリーデザイナーを続けているはずだって、あちこちのショップをチェックしてたんだって。5年半もよ?立派なストーカーよ」
都は呆れたように言うが、潤も真美も真剣な表情のままだ。
「それで姉貴、メールに返信したのか?」
「それがまだ何も」
ええ?!と潤は真美と声を揃えて驚く。
「どうするんだよ?まさかスルーするのか?」
「それがさー、そうしようと思ってたら2通目が届いたの。店舗に顔を出した時、ちょうど岳と一緒に買い物に行ったついでに立ち寄ったんだけど、それを彼に見られちゃったらしくて。で、メールにズバリ書いてあったの。俺の子だよね?って」
ひえっ……と真美は息を呑んだ。
「悔しながら、彼も私の性格をよく知ってんのよねー。最初のメールをスルーした時点で私の考えを悟って、次は切り札を出してきたのよ。あの子が俺の子じゃないというなら、弁護士を通して確かめさせて欲しいって。くーっ、脅しかよ?!」
「お、お姉さん、あの、落ち着いて。がっくんが起きちゃいます」
ドンッと床を踏みしめる都に、真美は思わず手を伸ばす。
「さすがの私も、弁護士なんて単語を出されたらビビっちゃってさ。潤と真美ちゃんに相談しようと思ったの。ね、どうすればいいと思う?」
うーん、と潤は腕を組む。
「まずは、姉貴の気持ちが一番だ。姉貴はどうしたい?」
「え?私?それは、この先もずっと岳と一緒に暮らしていくわよ。何があってもね」
「それは当然だ。じゃあ、岳のことは一度頭から外して。姉貴、その人とまた一緒になりたい?」
「えー、やだー!せっかく5年半逃げてきたのに、見つかったのが悔しいんだもん」
「姉貴、鬼ごっこじゃないんだから」
ヤレヤレとため息をついてから、潤は改めて真剣な眼差しで都に尋ねた。
「姉貴、今まで一人で必死に岳を育ててきただろう?誰かに頼りたくなったり、助けて欲しいって気持ちも押し殺して。俺、3か月間岳を預かって、しみじみ分かった。子育てって想像よりもはるかに大変だって。真美がいてくれなかったら、俺、ちゃんと岳に向き合えなかったかもしれない。どうすればいいんだろうって毎日悩んでばかりで、岳に楽しい時間を過ごさせてやれなかったと思う。姉貴は岳を一人で産んで育ててきた。俺の3か月間よりもはるかに長い年月を、大変な思いをしながら」
潤……、と都は言葉に詰まる。
「姉貴、心を開いてぶつかってみてもいいんじゃないか?一人で答えを出さなくていい。まずは、相手に向き合ってみなよ。互いに5年半の想いを全部出し合ってみなよ。そこから二人で考えればいいじゃないか。だって二人は、岳のパパとママなんだから」
シン……と沈黙が広がり、やがて都の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
真美も堪え切れずに涙ぐむ。
「姉貴、会いに行って来い。岳は俺と真美で預かってるから。二人でとことん本音で語り合って来い。すっきりするまで気持ちをさらけ出して来い。文句の1つや2つ、3つや4つ、言いたいことだってあるだろう?全部出し切って来いよ」
あ、でも手は出すなよ?と付け加える潤に、都も真美も思わず泣きながら笑う。
「分かった。なるべく手は上げないようにする。足は出るかもしれないけど」
「足ー?!蹴り飛ばすつもりかよ?」
「それくらい、いいでしょ?」
「いや、うーん。傷害事件にならない程度にな」
「がんばってみる」
「そこ?!がんばるのって、そこかよ」
あはは!と都は明るく笑った。
「ありがと!潤、真美ちゃん。私、腹割ってくる。岳を頼むわね」
「ああ」
潤と真美は、大きく頷いてみせた。
真顔ながらふざけた口調で、都は人差し指を立てる。
「なんと!今の会社に私宛で彼からメールが届いたの。どうやら、私がクリスマスジュエリーの販売の様子を見に、店舗に顔を出したところを偶然見かけたらしくて。彼ったらあの後、頭取のお孫さんとは結婚せずに、自力で経営を立て直してずっと私を探してたって言うの。私は株が持ち直したのをニュースで知って、てっきり政略結婚したものだとばかり思ってたからびっくりよ。彼、都なら必ずジュリーデザイナーを続けているはずだって、あちこちのショップをチェックしてたんだって。5年半もよ?立派なストーカーよ」
都は呆れたように言うが、潤も真美も真剣な表情のままだ。
「それで姉貴、メールに返信したのか?」
「それがまだ何も」
ええ?!と潤は真美と声を揃えて驚く。
「どうするんだよ?まさかスルーするのか?」
「それがさー、そうしようと思ってたら2通目が届いたの。店舗に顔を出した時、ちょうど岳と一緒に買い物に行ったついでに立ち寄ったんだけど、それを彼に見られちゃったらしくて。で、メールにズバリ書いてあったの。俺の子だよね?って」
ひえっ……と真美は息を呑んだ。
「悔しながら、彼も私の性格をよく知ってんのよねー。最初のメールをスルーした時点で私の考えを悟って、次は切り札を出してきたのよ。あの子が俺の子じゃないというなら、弁護士を通して確かめさせて欲しいって。くーっ、脅しかよ?!」
「お、お姉さん、あの、落ち着いて。がっくんが起きちゃいます」
ドンッと床を踏みしめる都に、真美は思わず手を伸ばす。
「さすがの私も、弁護士なんて単語を出されたらビビっちゃってさ。潤と真美ちゃんに相談しようと思ったの。ね、どうすればいいと思う?」
うーん、と潤は腕を組む。
「まずは、姉貴の気持ちが一番だ。姉貴はどうしたい?」
「え?私?それは、この先もずっと岳と一緒に暮らしていくわよ。何があってもね」
「それは当然だ。じゃあ、岳のことは一度頭から外して。姉貴、その人とまた一緒になりたい?」
「えー、やだー!せっかく5年半逃げてきたのに、見つかったのが悔しいんだもん」
「姉貴、鬼ごっこじゃないんだから」
ヤレヤレとため息をついてから、潤は改めて真剣な眼差しで都に尋ねた。
「姉貴、今まで一人で必死に岳を育ててきただろう?誰かに頼りたくなったり、助けて欲しいって気持ちも押し殺して。俺、3か月間岳を預かって、しみじみ分かった。子育てって想像よりもはるかに大変だって。真美がいてくれなかったら、俺、ちゃんと岳に向き合えなかったかもしれない。どうすればいいんだろうって毎日悩んでばかりで、岳に楽しい時間を過ごさせてやれなかったと思う。姉貴は岳を一人で産んで育ててきた。俺の3か月間よりもはるかに長い年月を、大変な思いをしながら」
潤……、と都は言葉に詰まる。
「姉貴、心を開いてぶつかってみてもいいんじゃないか?一人で答えを出さなくていい。まずは、相手に向き合ってみなよ。互いに5年半の想いを全部出し合ってみなよ。そこから二人で考えればいいじゃないか。だって二人は、岳のパパとママなんだから」
シン……と沈黙が広がり、やがて都の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
真美も堪え切れずに涙ぐむ。
「姉貴、会いに行って来い。岳は俺と真美で預かってるから。二人でとことん本音で語り合って来い。すっきりするまで気持ちをさらけ出して来い。文句の1つや2つ、3つや4つ、言いたいことだってあるだろう?全部出し切って来いよ」
あ、でも手は出すなよ?と付け加える潤に、都も真美も思わず泣きながら笑う。
「分かった。なるべく手は上げないようにする。足は出るかもしれないけど」
「足ー?!蹴り飛ばすつもりかよ?」
「それくらい、いいでしょ?」
「いや、うーん。傷害事件にならない程度にな」
「がんばってみる」
「そこ?!がんばるのって、そこかよ」
あはは!と都は明るく笑った。
「ありがと!潤、真美ちゃん。私、腹割ってくる。岳を頼むわね」
「ああ」
潤と真美は、大きく頷いてみせた。