小さな恋のトライアングル
「遅いわね、五十嵐くん。打ち合わせ長引いてるのかしら」

紗絵が呟く声が聞こえて、真美は顔を上げる。

時計を見ると、定時の18時を過ぎていた。

「ほんとですね、2時間以上経ってる」

そこまで言って、真美はハッとした。

(課長、保育園のお迎えは?間に合うのかな?)

急にソワソワと落ち着かなくなる。

(あの保育園って、確か7時までだったような気がする。課長、間に合う?遅くともあと20分後にはここを出ないと)

今か今かと待っていても、潤は一向に姿を現さない。

(あと5分で出ないと。絶対無理だ)

真美は意を決すると立ち上がり、紗絵に声をかけた。

「紗絵さん。私、課長とクライアントにコーヒーをお持ちしますね。そのあとそのままお先に上がらせていただきます」
「うん、分かった。ありがとねー、真美」
「はい。それでは失礼します」
「お疲れ様ー」

周りの社員達にも挨拶すると、真美は鞄を手に急いで給湯室に行く。

(確か、クライアントはお二人よね?)

コーヒーを3人分淹れるとトレーに載せ、手帳を破いてペンを走らせてからすぐさま会議室に向かった。

「失礼いたします。コーヒーをお持ちしました」
「どうぞ」

ノックしてから声をかけ、静かにドアを開けて中に入る。

やはり打ち合わせは時間がかかっているようで、机の上にはたくさんの資料が広げられていた。

真美はまずクライアントの前にコーヒーを並べてから、潤の前にも置く。

そして潤が目を落としている資料の横に、さり気なくメモ用紙を滑らせた。

『がくくんのお迎えは私が行きます』

チラリと目をやった潤が驚いたように顔を上げる。

真美はしっかり頷いてみせると、失礼いたしました、とお辞儀をして会議室を出た。
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