小さな恋のトライアングル
次の日。

潤は朝から念入りに身支度を整え、何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせていた。

「こんな潤さん、初めて見ます。いつもどんなクライアントにも、落ち着いて対応してるのに」
「いやー、これ以上緊張する場面なんて、人生で2つとないよ」
「そうですか?普通に雑談しに行くだけなのに」
「そんな訳ないだろ!真美、娘を持つ父親の気持ちを考えてみろ。手塩にかけて育てた可愛い可愛い娘を、どこの馬の骨とも分からん男に取られるんだぞ?もう俺、お前に真美はやれるかー!って、殴られるのを覚悟して行く」

あはは!と真美は声を上げて笑い出した。

「やだ!潤さんったら、テレビの見過ぎ。しかも昭和のホームドラマ。ちゃぶ台バーン!って?」
「そう。お茶がバシャーッてこぼれて、真美が『お父さん、やめて!』って俺をかばってくれるんだ」
「あはは!潤さん、その小芝居やりたいの?お父さんにやってって頼んであげようか?」
「いい、遠慮する」

真顔でブルブル首を振る潤に笑いながら、真美は明るく「じゃあ、そろそろ行きましょうか!」と言った。
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