小さな恋のトライアングル
「はあー、ごくらくー」

アスレチックのあと、汗を流そうと5人は併設された温泉施設に来た。

岳を潤と樹に任せた都は、真美と色んな種類の内湯を楽しみ、最後に露天風呂に浸かる。

まだ夕方の6時前だが、空には綺麗な月が浮かび、星も瞬き始めていた。

「なんだか普段の生活が嘘みたい。なんて贅沢な時間なのかしら」

都は縁に両手を載せて空を仰ぐ。

「子育てに追われて、お姉さん、ゆっくりする時間もなかなか取れないですもんね」
「うん。いつもはそれでもいいと思ってるの。別に旅行に行きたいとか、一人になりたいとかも思わない。だけどいざこうして来てみると、すごくホッとする。たまにはいいわね、こういう時間も」
「ええ。また来ましょうよ」

そうね、と笑ってから、都はまた空を見上げた。

「樹のことも、同じなの」

え?と真美は首を傾げる。

「ずっとね、岳と二人でいいと思ってた。私は一人で岳を育てるのに何も不満はない。父親がいなくたって、岳は不幸じゃない。私が幸せにしてみせるって、そう思ってた。けど、いざ樹に再会したら……。だめね、弱い自分がボロボロ出て来ちゃった」
「お姉さん……」
「樹にずっとそばにいて欲しいって思ってしまうの。一緒に岳を育てて欲しい。岳の父親として……って。もし樹に去って行かれたら、元の自分に戻れる自信がないの。私はもう、岳を一人で育てる覚悟が持てないかもしれない。情けないくらい、弱い母親になっちゃった」

寂しげに笑う都に、真美は必死で首を振った。

「違います、お姉さんは誰よりも強くて優しいママです。これまで一人で一生懸命がっくんを育ててきた分、ようやく今、樹さんに本音をさらけ出せるようになったんです。がんばってがんばって、ずっと張り詰めていた気持ちを、樹さんが溶かしてくれたんだと思います。お姉さん、これからは安心して樹さんにもたれかかってください。樹さんならきっと、お姉さんとがっくんを大きく包み込んでくれます」
「真美ちゃん……」

都の目に涙が浮かぶ。

「これからは、素直になってもいいのかな?本当は、岳が熱を出すと不安でたまらなくなるの。保育園でお友達のパパがお迎えに来た時、岳がじっとその様子を見ているのが辛くて。岳の前では笑ってるけど、夜中にふと、心細くて寂しくなる。全部全部、自分の気持ちを認めてもいいのかな?」
「もちろんです。全部全部、樹さんにぶつけて受け止めてもらってください」
「うん。ありがとう、真美ちゃん」

ようやく笑顔に戻った都に、真美も笑って頷いた。


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