小さな恋のトライアングル
小さなひよこぐみの園児達は先生から紹介され、全ての園児の紹介が終わると、担任の先生から一人一人にカードが渡された。

「中に先生からのメッセージと、みんなの手型、それから写真も入ってます。おうちに飾ってくださいね。それでは記念撮影をします。保護者の方、ステージのお子様のところまでお越しください」

椅子に座っていた保護者が一斉に立ち上がってステージに上がり、我が子と手を取り合って笑顔を浮かべる。

「ではお子さんを間に挟んで立ってくださいね」

どの子も父親と母親が両サイドにいるが、岳は右隣りに都がいるだけだ。

するといきなり岳が声を上げた。

「いつき!」

なあにー?と、ステージの前で座布団に座っていた男の子が返事をする。

「ちがうよ、そのいつきじゃない。パパ!」

真美はハッと息を呑む。
隣の潤も、ステージの上の都も、そしてもちろん、樹も……

「はやく!こっちにきてよ」

樹は呆然として動けない。

すると同じクラスのけいくんが岳に声をかけた。

「がく、パパいたのかよ?」
「いや、いない」

へ?と、真美達は目が点になる。

「いま、パパってよんだじゃないか」
「おれのパパじゃない。ママのパパだ」
「なんだ、それ?」
「だって、みんなのパパ、ママにやさしいだろ?いつきもおれのママにやさしいから。いつきはママのパパなんだ」
「がく、それってがくのパパともいうんだぞ?うちのパパだって、おれのパパだもん。な?みんな」

すると、そうだよー!と園児達も口々に答えた。

「がっくんパパ!はやくがっくんのとなりにいって」

ゆずちゃんがそう言うと、園児達から拍手が起こる。

「おめでとー!がっくんパパー」
「あっ、うん、ありがとう」

樹はためらいながら立ち上がり、ステージに上がった。

「岳……」

小さく呟くと、岳は左手を樹と、右手を都と繋いで前を向いた。

「はーい!では撮りますよ。笑ってー」

笑顔の岳と都の横で、涙を堪えようと必死の樹。

その写真は家族の大切な1枚になった。
< 136 / 168 >

この作品をシェア

pagetop