小さな恋のトライアングル
3月23日
岳の5回目の誕生日がやって来た。

「がっくん、おめでとう!」

仕事を定時で終えて、真美は潤と一緒に都のマンションを訪れる。

程なくして樹も顔を出し、賑やかにパーティーを開いた。

都ががんばって作ったハンバーグと唐揚げ、真美が作って持って来たケーキでお祝いする。

「ハッピーバースデー!」
「5歳のお誕生日おめでとう!岳」

都がクラッカーを鳴らし、樹がラジコンカーをプレゼントする。

「ありがとう!いつき、これどうやってやるの?」
「ん?じゃあ一緒にやってみるか」
「うん!」

樹が床にあぐらをかき、その上に岳が座って一緒にラジコンを走らせ始めた。

その姿は父と息子そのもの。

だが岳の『いつき』という呼び方は変わらないし、都達大人もお誕生会以降、パパという単語は誰も出さなかった。

岳の心の中で何かの変化があるのかもしれないが、敢えてそれに触れるつもりもない。

あくまで今まで通り、何も変わらず皆は岳と接していた。

ただ1つだけ。
樹は都の部屋から歩いて5分のところにある3LDKの分譲マンションに引っ越した。
夜中に何かあってもすぐに駆けつけられるようにと。

「いつき。ここだとせまいから、いつきのうちでラジコンしてもいい?」

何度か遊びに行って広さに感激していた岳は、どうやらあそこなら思い切りラジコンカーを走らせられると考えついたらしい。

「ああ、いいよ。今度の休みにおいで」
「やった!ママー、つれてってね」

はいはいと都は返事をするが、その横顔は幸せが滲み出ていた。

真美は潤と顔を見合わせて微笑む。

(呼び方や形式なんて気にならない。がっくんと樹さんの間には、間違いなく親子の絆が生まれてる)

そう思い、真美も自分の心の中が温かくなるのを感じた。
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