小さな恋のトライアングル
夜になり、真美は潤とリビングのソファで肩を並べる。

「俺もびっくりしたんだ。岳、いきなり普通に『おとうさん』って樹さんのこと呼んでさ。ピキッて、しばらく固まったよ。樹さんも自然に返事してるし。いつの間にー?何があったー?って」
「ふふふ、そうですよね。それはびっくりします。けど、本当に良かった」
「ああ、そうだな。それとさ、樹さんがそれとなく教えてくれたんだ。姉貴と岳のこと、ご両親に話したんだって」

えっ!と真美は驚いて潤を見上げる。

「それってつまり、6年前に結婚の挨拶に来たあといなくなったお姉さんが、一人でがっくんを産んで育てていたことも?」
「ああ。全てを話したらしい」
「それで?ご両親は、なんて?」

まさかまた二人を引き離そうと?と不安に駆られた。

「樹さん『どんなに反対されても絶対に都と岳は自分が守る。これは相談ではなく、宣言だ』って言ったらしい。そしたらご両親、分かったって。もう反対はしない。だから、いつか岳に会わせて欲しい。孫に会いたいって言われたそうだ」
「そうだったんですね、良かった……」

真美はホッと胸をなで下ろす。

「今の樹さんは、三原ホールディングスでもしっかりと地位を築いている。ご両親もそれを充分分かっていて、あの時姉貴との結婚を反対したことを悔やんでいたらしい。ひとり息子の樹さんはどんな縁談も頑なに断るばかりで、もう孫の顔は見られないと諦めてたんだって。岳がいると知って、勝手だが姉貴に謝りたいとおっしゃってるそうだ」
「そうですか。もちろん、お姉さんの気持ちは複雑だと思います。だけど時間と共に少しずつ、気持ちが和らいでいくといいですね。焦らずに、ゆっくりと」

言葉を噛みしめる真美を、潤は優しく見つめた。

「真美は本当に優しくて心が綺麗だ。そのネックレスとプレスレット、すごく似合ってる」
「ふふっ、ありがとう。お姉さんからの素敵なプレゼント、私の宝物なの。ずっと大切に着けます」
「もしかして会社でも着けるの?」
「はい。いけませんか?」
「いいけど、心配で……」

は?と真美は首をひねる。

「心配って、何が?私がどこかに落っことしそうってこと?」
「違うよ。それを着けてる真美がとびきり綺麗で、他の男に狙われるのが心配なの」
「あ、それならご心配には及びません。誰も私なんて見てませんから」
「自覚がないのが一番心配!あー、もう朝礼で言おうかな」
「なんて?」
「俺の真美に手を出すなって」

な、なにを……?!と真美は仰け反る。

「絶対にだめですからね!」
「だっていずれ分かるし、隠す必要もない」
「だからって、だめです!」
「じゃあ、もし真美が誰かに口説かれたら、すぐに朝礼で発表する」
「だからなんで朝礼なんですか?」
「そうか、それなら社内一斉メールにする」
「もっとだめー!」

まあ、誰かに言い寄られたりはしないから、大丈夫か、と真美は気にしないことにした。
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