小さな恋のトライアングル
「ちょっとちょっとー!紗絵ちゃーん!」
「うるさい。キモい。離れて」

廊下に出た途端に近寄って来た平木を、紗絵はバッサリと斬り捨てる。

「いいから、聞いてよ」
「良くないから、聞かない」
「さっきさ、望月ちゃんを見かけたんだよ」
「だからなに」
「それがキラッキラのネックレス着けてたの!」
「だからなに。その2」

スタスタと歩みを止めない紗絵に、平木は負けじと追いすがった。

「望月ちゃん、彼氏出来たのかな?」
「知らない」
「じゃあ、誰からもらったんだろ?」
「憧れの女性から、だって」
「そうなの?!それって、誰?」
「個人情報保護法って知ってる?」
「知ってるけど、今それ破ったの紗絵だぞ」

ピタリと沙絵は足を止めて振り返る。

「あんたがあまりにしつこいからよ。真美の彼氏を勘ぐって、変な噂立てたら許さないからね。以上、解散」

そしてまたスタスタと歩いて平木を振り切った。

だがそうは言っても、紗絵自身も不思議だった。

(真美、五十嵐くんとはどうだったんだろう?つき合ってないにしろ、二人の間に何かはあったと思うのよね。だけど相変わらず五十嵐くんは残業続きの毎日だしなあ。真美があのアクセサリーを憧れの女性からもらったって話も、嘘ではないだろうし。んー、ほんっとに訳が分かんない)

かと言って若菜や平木に相談すれば、事態はややこしくなりそうだ。

紗絵は一人で悶々とやり過ごすしかなかった。
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