小さな恋のトライアングル
しばらくするとピンポンとインターフォンが鳴り、真美は受話器を上げる。
「はい」
「五十嵐だ。悪い、遅くなって」
息を切らしながらすまなそうに潤が詫びる。
「大丈夫です。今、開けますね」
玄関を開けると、急いで来たのだろう、潤は肩で息をしながら切羽詰まった表情をしていた。
いつもは綺麗に整った髪型も無造作に乱れている。
「ゆっくりで大丈夫だったのに。がっくん、今よく寝てるんです」
「え、そうなのか?ごめん、図々しく」
「とんでもない。課長、どうぞ入ってください」
「ああ、お邪魔します」
潤は靴を脱いで静かに部屋に上がると、ベッドに近づき岳の様子をうかがう。
「ほんとだ、よく寝てる。ごめん、こいつ色々と生意気な口きいただろ?」
「全然そんなことないですよ。とってもいい子です」
「そう?なんか俺、どうやってしつけとかしたらいいのか分からなくて。もっとビシッと叱った方がいいのかな」
小さく呟く潤に、真美は少し考えてから口を開いた。
「課長。がっくんは、すごくすごくがんばってるいい子です。叱るだなんて、とんでもない」
え?と、潤は怪訝そうに真美を振り返る。
「がっくん、私が保育園にお迎えに行った時、先生と二人でポツンと広いホールに座ってました。きっとお友達が次々と帰って行くのを見送りながら、寂しくてたまらなかったと思います。それでなくても、今はママと離れて暮らしてるんですし」
そう言って真美は、あどけない岳の寝顔を優しく見つめた。
「それに、昨日ほんの少し会っただけの私の手を、ギュッと握ってくれました。まだ4歳ですよ?こんなに小さな身体で、毎日を一生懸命に生きてるんです。叱ることなんて、何一つありません」
望月……と、潤は言葉に詰まる。
真美は岳の頭をそっとなでると、思い出したように潤を見上げた。
「課長、夕食まだですよね?すぐに用意します。よかったら召し上がってください」
キッチンに向かう真美に、え、いや、と潤はためらう。
「がっくんが混ぜ混ぜしてくれたんですよ。ツナとコーンとソーセージのマカロニグラタン。課長のは、チーズとパン粉たくさん載せて焼きますね」
真美は手早く準備してグラタン皿をオーブンに入れ、サラダやスープをローテーブルに並べた。
「望月、ごめんな。なんか俺、迷惑かけっぱなしで。お迎えだけじゃなく、夕食まで……」
「ですから、全然そんなことないですって。がっくんとおしゃべりしながら食べるの、本当に楽しかったです。あ、グラタン熱いので気をつけてくださいね」
焼き上がったグラタンもテーブルに置くと、潤は、いただきますと手を合わせた。
「うん、美味しい!このグラタン、ほんとに手作り?」
「そうですよ。たまに赤ワインを入れたボロネーゼでペンネグラタンを作ったりもするんですけど、今日はがっくん用にホワイトソースのマカロニグラタンにしました」
「へえー、ボロネーゼの方も食べてみたいな。って、あ……。悪い、つい余計なことを」
顔をしかめる潤に、真美は、ふふっと笑いかける。
「課長、今日は私に謝ってばっかりですよ?」
「いや、だって……」
「こんなにタジタジになる課長、珍しい!オフィスではいつもキリッとしてるのに」
「うん、まあ。仕事だとやることがはっきりしてるから身が入るんだけど、普段は俺、結構ボーッとしてるんだ」
「そうなんですか?なんだか意外」
知らない一面が見られた気がして、真美はなんだか嬉しくなる。
それにこんなに打ち解けて話をするのも初めてだった。
「はい」
「五十嵐だ。悪い、遅くなって」
息を切らしながらすまなそうに潤が詫びる。
「大丈夫です。今、開けますね」
玄関を開けると、急いで来たのだろう、潤は肩で息をしながら切羽詰まった表情をしていた。
いつもは綺麗に整った髪型も無造作に乱れている。
「ゆっくりで大丈夫だったのに。がっくん、今よく寝てるんです」
「え、そうなのか?ごめん、図々しく」
「とんでもない。課長、どうぞ入ってください」
「ああ、お邪魔します」
潤は靴を脱いで静かに部屋に上がると、ベッドに近づき岳の様子をうかがう。
「ほんとだ、よく寝てる。ごめん、こいつ色々と生意気な口きいただろ?」
「全然そんなことないですよ。とってもいい子です」
「そう?なんか俺、どうやってしつけとかしたらいいのか分からなくて。もっとビシッと叱った方がいいのかな」
小さく呟く潤に、真美は少し考えてから口を開いた。
「課長。がっくんは、すごくすごくがんばってるいい子です。叱るだなんて、とんでもない」
え?と、潤は怪訝そうに真美を振り返る。
「がっくん、私が保育園にお迎えに行った時、先生と二人でポツンと広いホールに座ってました。きっとお友達が次々と帰って行くのを見送りながら、寂しくてたまらなかったと思います。それでなくても、今はママと離れて暮らしてるんですし」
そう言って真美は、あどけない岳の寝顔を優しく見つめた。
「それに、昨日ほんの少し会っただけの私の手を、ギュッと握ってくれました。まだ4歳ですよ?こんなに小さな身体で、毎日を一生懸命に生きてるんです。叱ることなんて、何一つありません」
望月……と、潤は言葉に詰まる。
真美は岳の頭をそっとなでると、思い出したように潤を見上げた。
「課長、夕食まだですよね?すぐに用意します。よかったら召し上がってください」
キッチンに向かう真美に、え、いや、と潤はためらう。
「がっくんが混ぜ混ぜしてくれたんですよ。ツナとコーンとソーセージのマカロニグラタン。課長のは、チーズとパン粉たくさん載せて焼きますね」
真美は手早く準備してグラタン皿をオーブンに入れ、サラダやスープをローテーブルに並べた。
「望月、ごめんな。なんか俺、迷惑かけっぱなしで。お迎えだけじゃなく、夕食まで……」
「ですから、全然そんなことないですって。がっくんとおしゃべりしながら食べるの、本当に楽しかったです。あ、グラタン熱いので気をつけてくださいね」
焼き上がったグラタンもテーブルに置くと、潤は、いただきますと手を合わせた。
「うん、美味しい!このグラタン、ほんとに手作り?」
「そうですよ。たまに赤ワインを入れたボロネーゼでペンネグラタンを作ったりもするんですけど、今日はがっくん用にホワイトソースのマカロニグラタンにしました」
「へえー、ボロネーゼの方も食べてみたいな。って、あ……。悪い、つい余計なことを」
顔をしかめる潤に、真美は、ふふっと笑いかける。
「課長、今日は私に謝ってばっかりですよ?」
「いや、だって……」
「こんなにタジタジになる課長、珍しい!オフィスではいつもキリッとしてるのに」
「うん、まあ。仕事だとやることがはっきりしてるから身が入るんだけど、普段は俺、結構ボーッとしてるんだ」
「そうなんですか?なんだか意外」
知らない一面が見られた気がして、真美はなんだか嬉しくなる。
それにこんなに打ち解けて話をするのも初めてだった。