小さな恋のトライアングル
翌日。
いつものようにオフィスで仕事をしていた真美は、隣の課に書類を届けに行こうと廊下に出たところで、「望月!」と呼ばれて振り返った。

両腕に書類を抱えた潤が、大きな歩幅で歩み寄って来る。

「課長、どうかされましたか?」
「うん。ちょっといいか?」
「はい」

またしても空いている会議室に促され、ドアをパタンと閉められた。

「あの、何か?」
「仕事中に悪い。これを渡したくて」

そう言って潤は気まずそうに、書類の下に隠していたものを差し出す。

受け取ると、丸めた画用紙に赤いリボンが掛けてあった。

(なんだろう。表彰状?そんな訳ないか)

首をひねっていると、潤がボソッと呟く。

「それ、岳から」
「えっ!がっくんが、私に?」
「ああ。昨日保育園にお迎えに行ったら、先生から渡されたんだ。岳がお絵描きの時間に、先生にひらがなを聞いてきたんだって。まみって、どうかくの?って」

えっ……と真美は思わず息を呑んだ。

「あの、見てもいいですか?」
「ああ、どうぞ」

真美はそっとリボンを解くと、ドキドキしながら画用紙を開いた。

「わあ、可愛い!」

カラフルなクレヨンで描かれていたのは、にっこり笑ったピンクのスカートの女の子と、なにやら真面目な顔の青いズボンの男の子。

そしてその二人の間に、背の低い男の子が口を大きく開けて笑っている。

「これって、私?!」

女の子の横にクレヨンで『まみ』と書かれていた。

男の子の横には『じゅん』
背の低い子の横には『がく』

「なんて素敵な絵……」

心温まる、幸せが詰まった絵に、真美は目頭を熱くする。

「岳のやつ、描いたはいいけど照れちゃって。先生が、せっかくだからプレゼントしたら?って言っても、なかなか頷かなかったんだって。綺麗にリボンを掛けて、ようやく渡そうって気になったらしい」
「そうだったんですね。嬉しい……」

真美はもう一度じっと女の子の絵を見つめた。

(にっこり笑ってる。すごく楽しそう。これが私?こんなに明るい表情で……。近寄りがたい雰囲気なんかじゃない。本当に私なの?)

気がつくと涙が溢れていた。

「えっ!望月?どうした?」

潤が焦ったように顔を覗き込んでくる。

「すみません。私……、嬉しくて。がっくん、私のことこんなふうに見てくれてたんですね。嬉しい、本当に……」

ポタポタと涙をこぼす真美に、潤は慌てて言葉を探す。

「えっと、大丈夫か?あいつの絵が、なんか、変だったとか?」
「ううん、違います。私をこんなにも幸せな気持ちにさせてくれる素敵な絵です。ずっと私の宝物にします。がっくんに、ありがとうって伝えてください」
「あ、ああ……。分かった」

戸惑いつつも頷く潤に、真美は涙を浮かべたままにっこりと笑いかけた。
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