小さな恋のトライアングル
真美の部屋に着くと、3人でうがい手洗いを済ませる。

真美はローテーブルに岳の麦茶と潤のコーヒーを置いてから、早速炊飯器をセットした。

「がっくん、嫌いな食べ物ある?」
「ピーマン。おれ、あれだけは、ぜったいむり」
「あはは!ほんとにだめなんだね。実感こもってる。じゃあ今日もコーンとソーセージを入れる?」
「うん!」

ご飯が炊き上がるのを待つ間、真美はローテーブルに食材を並べた。

「じゃあ、がっくん。一緒にソーセージを切ってみようか」
「え、やってもいいの?」
「うん。一人ではやらないでね。私と一緒にやってみよう」

そう言って真美は、正座した膝の上に岳を座らせた。

まな板の上にソーセージを置き、小さな果物ナイフを岳に握らせて、その上から右手でしっかりと岳の手を包み込む。

「いい?ソーセージを左手でこんなふうに押さえるの。そしたら、この端っこをサクッと切るよ?」

うん、と岳は真剣に頷く。

「いくよ?いちにの、さん」

右手に力を入れてソーセージの端を切る。

「ほら、切れた」
「うん!やった!」

岳は目を輝かせて真美を振り返った。

「やったねー。じゃあもう一回いくよ?」

いちにの、さん、と声を揃えてまた端を切る。

何度も繰り返し、全て切り終えると、岳は満足そうにパチパチと手を叩いた。

「やったー!おれもおとなになったなー」

ブッと思わず潤が吹き出すと、課長!と真美は横目でいさめた。

「がっくん、上手に出来たね。今日はがっくんのお料理デビューの日だよ」
「きねんび?」
「そう。記念日」
「じゃあ、パーティーしなきゃな」
「あはは!うん、しようしよう」

真美は岳を膝から下ろして立ち上がった。

「じゃあ、あとはがっくんに任せるね。この間みたいにコーンをお皿に出してくれる?」
「うん!つめたーいやつね」
「そう。つめたーいから気をつけてね」

ローテーブルにスイートコーンの袋と小皿を置き、真美は冷蔵庫から野菜を取り出してキッチンで手早くみじん切りにした。

ご飯が炊き上がると、フライパンで具材と一緒にバターで炒め、塩コショウとケチャップで味付けする。

卵を1つ溶くと小ぶりのフライパンに流し入れ、ケチャップライスを載せて端に寄せてから、手首を返して皿に盛り付けた。

「ほら、出来た!」

岳に見せると、うわー!と目をまん丸にしてほっぺに手をやっている。

「ふふふ、がっくん可愛い。じゃあ、このオムライスにケチャップでお絵描きしてね。何でも描いていいよ」

テーブルに皿とケチャップを置き、真美はもう一度キッチンに戻ってあと2つオムライスを仕上げた。

「どう?お絵描き出来たかな?」

皿をテーブルに置くと、岳の手元を覗き込む。
岳は真剣な表情でケチャップを握りしめていた。
よれよれとしているが、どうやら車を描いているらしい。

「できた!」
「おお、いいね。車でしょ?かっこいい!」
「うん。まみもなんかかいて」
「えー、お絵描き下手だからなー」
「だいじょうぶだって」

真美は岳からケチャップを受け取ると、チューリップを描き、横に『まみ』とひらがなを添えた。

「おっ!まみ、なまえかけるんだ?」
「え?う、うん。一応ね」
「おれもかけるぜ」

そう言って『がく』と大きくよれよれと書き添える。

「わあ、がっくんも上手!世界で一つのスペシャルオムライスだね」
「うん!スペシャル!」
「あはは、スペシャル!」

二人で盛り上がってから、岳は潤の顔を見上げた。

「じゅんもおえかきして」
「え、俺?いや、いいよ。なんか恥ずかしいし」
「きどってんなー。ま、いいや。じゃあおれがかいてやるよ」

岳は潤の膝に座ると、今度は電車を描き始めた。

「できた!まみ、じゅんのなまえかいて」
「え、ええ?!」

ケチャップを手渡され、真美はたじろぐ。

「ほら、はやく。じゅんってかける?」
「か、書けます。一応」
「じゃあかいて」
「は、はい」

ここはやっぱり、『かちょう』って書いちゃだめだよね?と思いつつ、えい!と意を決して『じゅん』と書く。

「おお、かけるじゃん。じゃあハートマークは?」
「か、書けません!」
「そうなの?おんなのこは、みんなかいてるぜ?」
「そそそうですか。すみません」
「あやまるなって。じゃあ、たべてもいい?」
「はい!召し上がれ」

3人で「いただきます」と手を合わせてから食べ始めた。

「おいしい!」

岳は口を大きく開けて勢い良く頬張る。

「岳、喉詰まらせるなよ?」

潤の言葉は聞こえていないようで、岳は夢中でスプーンを口に運んでいる。

「ごちそうさまでした!」

ぺろりと平らげた岳に、真美はふふっと笑いかけた。

「がっくん。実はね、そのオムライスにピーマン入ってたんだよ」
「ええ?うそだ!なかったぞ?」
「ほんと。すっごーく小さくして入れてたの。がっくん、知らない間にピーマン食べられるようになったんだよ」
「じゃあ、ピーマンきねんび?」
「そう!ピーマン記念日。お祝いしなきゃね。かんぱーい!」

真美は岳と麦茶のグラスを合わせて笑い合った。
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