小さな恋のトライアングル
「ひゃー、ちっちゃい椅子!保育園って、隅から隅まで可愛い空間ですね」

ホールに並べられた園児用の椅子に座って、真美は辺りをキョロキョロと見回す。
部屋のあちこちに動物のイラストが飾られ、舞台を覆う赤いビロードの幕には『おゆうぎかい』の文字が並んでいた。

「はあ、もう既に感動で胸がいっぱいです」
「ええ?まだ始まってもいないのに?」
「そうですよね。これでがっくんの出番が来たら、どうなっちゃうんだろう?私」

真顔で心配する真美に、潤は、はは!と笑う。

「望月、赤の他人の子どもでそれなら、我が子の時にはどうするんだ?」
「課長。がっくんは赤の他人じゃないです。私の大事な大事ながっくんです」
「ん?つまり、なんだ?」
「つまり、そうですね……。血の繋がりなんて関係ないってことです。心の繋がりがあるので」

きっぱりと言ってから、またわくわくと部屋を見渡す真美の横顔を、潤は驚いたように見つめる。

「あ、課長!ビデオ撮らなきゃ。早く準備してください」
「え?ああ、そうだな」

我に返って、潤はスマートフォンをムービーに切り替えて構えた。

「それではこれより、おゆうぎ会を始めます。まず初めに、園児達による『はじめのことば』です」

先生がマイクで告げ、ホール内のざわめきが消える。

赤い幕が左右に開くと、舞台の上には園児全員が揃っていた。

(ひゃー、可愛い!赤ちゃんもいる!)

衣装を着たお兄さんお姉さんに混じって、まだ1歳くらいの小さな子も、先生に抱っこされながらステージに上がっている。

王子様の衣装を着た岳は、ちょうど真美の正面、舞台の真ん中でキリッとした表情で立っていた。

(かっこいい!がっくん、やっぱり課長にそっくり)

真美は早くも胸がドキドキと高鳴る。

舞台袖から先生の「せーの!」という掛け声が聞こえたあと、園児達が一斉に声を揃えた。

「はじめのことば。これから、おゆうぎかいをはじめます。どうぞさいごまで、ごゆっくりごらんください」

たったそれだけのセリフ。
だが真美は、感極まって涙ぐんだ。

(すごい。あんな小さな子ども達が、一生懸命練習したんだろうな)

大きな拍手を送っていると、一旦幕が閉められる。

「プログラム1番。ひよこぐみさんによる『スマイルダンス』です」

アナウンスのあと再び幕が開くと、2歳児クラスの園児達が、ポンポンを両手に持って現れた。
明るい音楽が流れ、ポンポンを振りながらニコニコと踊り始める。

ぴょんぴょん飛んだり、くるくる回ったり、何をやってもとにかく可愛い。

真美は目からハートマークが出そうなほどメロメロになって手拍子を送っていた。
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