小さな恋のトライアングル
軽やかなワルツが流れ始め、ドレスを着た女の子と蝶ネクタイをつけた男の子のペアが、手を取り合って踊りながら舞台の中央に集まって来る。

音楽が盛り上がりを見せ、カップル達が踊りを止めて左右にはけた。

舞台の真ん中に皆が注目がする中、ブルーのドレスのシンデレラの手を引いて現れたのは……

(きゃーー!がっくん!)

思わず真美は息を止め、右手で隣に座る潤の袖をギュッと掴んだ。

ん?と潤が視線を向けると、真美は舞台の上の岳をじっと見つめたまま固まっている。

「望月、大丈夫か?息してるか?」

小声で囁くが、真美は潤の服を握りしめ、前を凝視したままピクリとも動かない。

仕方なく潤も舞台に目を戻した。

岳は華やかな音楽に合わせて、シンデレラと楽しそうにくるくる踊っている。

そこに、ボーン、ボーンと時計の音が鳴り響く。

「たいへん!まほうがきえてしまうわ」

走り出すシンデレラを、岳が追いかける。

「まってください!おじょうさん」

舞台袖にシンデレラが消え、岳は幕の近くに落ちていたガラスの靴を拾い上げる。

「このくつがあうおじょうさんをさがそう」

バタバタと大勢の兵隊さんが現れ、岳と一緒に歩いて行く。

下手から、カラフルなドレス姿の女の子が賑やかに現れた。

「ガラスのくつは、わたしのものよ」
「いいえ。わたしのものよ」

岳が順番に女の子達の前に立ち、ガラスの靴を差し出す。

「だれもこのくつがはいらない。これはいったい、だれのくつだ?」

「わたしのくつです。おうじさま」

ブルーのドレスを着たシンデレラが岳の前に歩み出る。

「おお、あなたですね、おじょうさん。どうかわたしと、けっこんしてください」
「はい、おうじさま」

うひゃー!と、真美は潤の袖を掴んでいる手に力を込めた。

「望月、痛い。俺の腕の肉も掴んでる」

潤が顔をしかめながら小声で囁くが、やはり真美の耳には届かない。

それどころか、クライマックスで再びシンデレラと踊り始めた岳に、真美はますます潤の腕をつねり上げる。

(ううっ……、がっくん輝いてる。ほんとにかっこいい!キラキラした王子様!)

『こうしてシンデレラは王子様といつまでも幸せに暮らしました。めでたし、めでたし』

ナレーションが締めくくり、舞台に出演者全員が並んで笑顔で手を振る。

(がっくん!良かったよー、がんばったね!)

ようやく潤の袖を離し、真美は目を潤ませながら精いっぱいの拍手を送った。
< 36 / 168 >

この作品をシェア

pagetop