小さな恋のトライアングル
「それでは、いただきまーす!」

こんがりキツネ色に焼き上がったギョウザを、3人は早速頬張る。

「おいしい!おれがつくったギョウザ、めちゃくちゃおいしい!おれ、てんさい」

岳は興奮気味に目を輝かせ、次々と平らげていく。

パリッと小気味いい音がして、潤も思わず目を見開いた。

「ほんとだ、すごく美味しい」
「そうですか?良かった」
「ああ。店で食べるギョウザって脂っこいけど、これは具材の味がしっかりしてるし食べやすい。しかもこんなにたくさんあるし」
「ふふっ、たくさん召し上がってくださいね」

作り過ぎかと思っていたが、結局3人で綺麗に平らげた。

食後のお茶を飲んでいると、岳が目をごしごしこすり始める。

「がっくん、眠い?」
「ん、ねむい」
「お昼寝の時間だもんね。ベッドに行こうか」

真美が布団をめくると、岳はふらふらしながらベッドに上がり、コテンと寝てしまった。

「ふふ、可愛い。課長、今コーヒーを淹れますね」
「いや、そんな。気にしないで」
「私が飲みたいので」

キッチンでコーヒーを淹れていると、潤が食器洗いを始めた。

「ありがとうございます」
「こちらこそ。いつもありがとな、望月」

スーと気持ち良さそうに眠っている岳のかたわらで、真美は潤とゆっくりコーヒーを味わう。

「あのさ、望月」
「はい、何でしょう?」
「うん、あの。いつも聞きそびれてたんだけど」

潤がちょっと気まずそうに視線を落としながら話し出した。

「いくら岳と一緒とはいえ、俺が望月の部屋に上がるのは良くないと思って。望月って……、今、特定の恋人とか、いる?」

そう言ってそっと真美の様子をうかがう。

「いえ、大丈夫です。いませんから」
「そうか、それなら良かった。あ!ごめん、良くないか」
「ふふっ、良いですよ。一人は気楽だし。課長の方こそ、大丈夫ですか?おつき合いされてる方に誤解されたりしてませんか?」
「ああ、俺もいないから大丈夫」
「そうですか。そう言えば課長、結婚願望ないっておっしゃってましたもんね」
「うん。だから誰かとつき合いたいとか、あんまり思わなくて。平木はいつも、恋人いないと死んじゃう!とか大げさに騒いでるけどな」

あはは!と真美は想像して笑い出す。

「なんだか目に浮かびます」
「だろ?泳ぐのやめると死んじゃうマグロかよ?って、いつも呆れてた」
「マグロって!やだ、平木課長の人面魚を想像しちゃった!」
「うげ、それはキモいな」

二人でゲラゲラと笑い合う。

ようやく落ち着くと、真美は壁の時計を見上げて潤に提案した。

「課長、よかったら晩ご飯もここで食べていきませんか?」
「え、さすがにそれは。望月が大変だろ?」
「いいえ、私ががっくんともっと一緒にいたくて。いけませんか?」
「いや、こっちはありがたいけど」
「それなら、ぜひ!じゃあ今のうちに、下ごしらえしちゃいますね」

真美が立ち上がってキッチンに向かうと、手伝うよ、と潤もついてきた。

「大丈夫ですよ。座っててください」
「いや、よければ料理を教えてもらいたくて。岳に買ってきた惣菜ばかり食べさせるのは考えものだから」
「あ、確かに。じゃあ簡単に出来るものを、一緒に作ってみますか?」
「うん、教えて欲しい」
「分かりました。それなら、そうだな……」

冷蔵庫を開けると、真美は、うーん、と考えながら食材を取り出す。

「では今回は、必殺!包丁いらずの時短レシピ!」
「おお!素晴らしい」

得意気にひき肉のパックと卵を掲げると、潤がパチパチと拍手をした。

「今日使うのは牛肉のミンチですけど、合挽きでも豚肉のミンチでも、鶏肉のミンチでも大丈夫です。とにかくスーパーで、こんなふうに細かくなってるひき肉を買って来てください」
「うん、分かった」
「作るのは、三色どんぶりです。お肉と卵のそぼろ、あとは桜でんぶとか何でもいいのでご飯にのっけます。なんなら、四色でも大丈夫です。じゃあ早速、小さなお鍋でひき肉を炒めますね」

火をつけて鍋を温めてから、潤は真美に教わりつつ、ひき肉を入れて塩コショウで炒める。

「色が変わればオッケーです。次に味をつけていきますね。私はいつも目分量でやってしまうんですけど、最初は感覚掴めないと思いますので、あとで分量をメモしてお渡ししますね」
「ありがとう、助かるよ」

真美は手際良く、砂糖と醤油、みりんを入れて味見する。

「これくらいでどうでしょう?」

渡されて潤も味見用のスプーンを口に運んだ。

「うん!旨い」
「良かった。じゃあ、がっくんのはこれで。少し取り分けておきますね。大人用には、更にお酒を入れて煮詰めます」
「へえ、それもいいな」
「お肉はこれで完成です。次はスクランブルエッグを作ります。これなら、がっくんも混ぜ混ぜお手伝いしてもらえるかも」
「そうだな。俺でも出来るし」

潤はフライパンでスクランブルエッグを作った。

「これで二色出来ました。あと一色は、がっくんには桜でんぶ、課長用には、青菜と鷹の爪を炒めたものを載せますね。常備菜なんですけど、お酒のおつまみにもなりますよ。あとこれだと、がっくんの野菜が足りないので、今日はレタスを細かくしたものを用意しようと思います。がっくんが起きたら一緒に盛りつけましょうか」
「分かった。これで終わり?簡単だな。これなら俺でも出来そうだ」

そう言う潤に微笑んでから、真美はカフェオレを入れてローテーブルに促した。

「じゃあ、簡単にレシピを書いておきますね。もしお肉を煮詰めるのも時間がなければ、サラダチキンを手で裂いて載せてもいいと思います。焼き鳥のタレとかも売ってますから、それを少しかけるだけでも美味しいですよ」
「そうなんだ。料理って、カッチリやらなくてもいいんだな」
「もちろんです。私なんて、かなり大ざっぱですよ。もう何でもアリって感じで」
「そうなの?会社での望月からは想像出来ないけど」
「お仕事ですもん。会社ではちゃんとやりますよ。だけどうちに帰るとダラーッとしてます。手抜き最高!時短バンザイ!ですよ」

あはは!と潤は笑い出す。

「全然想像つかない。会社でも手抜きしてみてよ」
「え、いいんですか?全く使いものにならなくて、課長が大変な目に遭いますよ?」
「そんなに?」
「ええ。机の上でとろけたマシュマロみたいになってます」
「ははは!可愛いな、それ」
「どこがですか?」

おしゃべりしながらレシピを書き、潤に手渡した。

「はい。分量はあくまで目安なので、適当で大丈夫ですよ。味見しながら調節してください」
「ありがとう。これが作れるようになったら、また別の料理教えてもらってもいい?」
「もちろんです。私もいくつかレシピ書いておきますね」
「助かるよ」
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