小さな恋のトライアングル
「紗絵さん、どうでしたか?部長はなんて?」
部長に報告しに行った紗絵が戻ってくると、真美はすぐさま立ち上がって尋ねた。
若菜達他のメンバーも、身を乗り出す。
「んー、ひと言で言うと激怒してた」
ああ……、と皆は視線を落とした。
「でも私達が今やるべきことは、部長のご機嫌取りじゃないわ。クライアントに誠心誠意謝罪して、きちんと正しいシステムをお届けすることよ。伊藤くんが本来送るはずだったシステムを、皆でチェックしましょう。これ以上失礼のないように。それから先方に知られてしまったもう一つのクライアントにも、説明と謝罪に行かなければ。報告書を作成するわよ」
「はい!」
皆で気を引き締め、手分けして作業に当たった。
潤がオフィスを出てから3時間が経った午後5時。
潤から紗絵に報告の電話が入った。
「そう、分かったわ。とにかくお疲れ様。オフィスで待ってるから」
電話を切った紗絵は、心配して固唾を呑んでいたメンバーを見渡す。
「クライアントに謝罪して来たそうよ。今回は、間違って送ってしまった方も、間違えられた方も、厳密に言うとうちの関連会社だったから、対外的には特に問題はなかったそう。伊藤くんを初めてひとり立ちさせた案件だから、五十嵐くんが多少のミスを予測して敢えてそうしたのが功を奏したわね。ただ、会社として守るべき機密事項をもらしたことは契約違反に当たるから、ここから先は部長の判断に従って行動することになるわ」
はい、と皆で神妙に頷く。
「今回のことは伊藤くん一人の責任じゃない。彼の行動を把握していなかった私達みんなの責任よ。だからみんなで一緒に乗り越えましょう。二度とこんなことを起こさないように」
「分かりました」
「さあ、落ち込んでる暇はないわ。マニュアルの見直し、報告書の作成、色々頼んだわよ」
「はい!」
気を引き締めて、真美達はまたデスクに戻る。
その時だった。
いきなりギシッとデスクがきしむ音がしたあと、一気にガタガタと大きく揺れ始めた。
「キャーー!」
若菜の悲鳴が響く。
(え、地震?大きい!)
グラグラと立っていられないほど揺さぶられ、思わず真美はデスクにしがみつく。
「みんな、とにかくしゃがんで!」
紗絵が大声で叫び、ハッとして皆はデスクの下にうずくまった。
ゴゴゴ…と地鳴りのような不気味な音と、デスクの上から物が落ちるガシャン!と派手な音が辺りに響き渡る。
「怖い!」
「若菜ちゃん、落ち着いて。大丈夫よ」
根拠はないが、とにかく大丈夫と真美は若菜に繰り返す。
そのうちに、バチン!と電気が一斉に消えて、オフィスは真っ暗になった。
キャーー!と若菜が更に大きな悲鳴を上げる。
(停電?)
そう思っていると、不意にパッと明るくなった。
「自家発電に切り替わったようね。地震も収まったみたい。みんな、大丈夫?」
紗絵の冷静な声に、ようやく若菜もホッとしたようだった。
「怖かったー!物が飛び散ってますね」
オフィスの床には、ノートや書類、電話やパソコンなど、デスクに置いてあったありとあらゆる物が散乱していた。
「片付けなんて今はやらなくていいから。安否確認するわよ。ケガしてる人はいない?」
大丈夫です!と次々声が上がる。
「ここにいない課のメンバーは、五十嵐くんと伊藤くんだけ?」
「そうです」
「分かった。じゃあ、これから指定された避難経路を通って外に出るわよ。余震が来るかもしれないから、充分気をつけてね」
はい、と頷いた真美は、次の瞬間ハッとして顔を上げた。
(がっくん!)
保育園にいる岳は無事だろうか?
潤は今、謝罪先の千葉からこちらに向かっている最中だろう。
もしかしたら、電車の中に閉じ込められているかもしれない。
(お迎えに行かなきゃ!)
真美は鞄を掴むと紗絵に早口でまくし立てた。
「すみません!紗絵さん。家族が心配なので、帰宅してもよろしいでしょうか?」
「え?真美、ひとり暮らしじゃなかった?」
「そうですけど、お願いします!一刻も早く行ってあげないと!」
必死の形相の真美に、紗絵は頷く。
「分かったわ。くれぐれも気をつけるのよ?真美」
「はい!ありがとうございます」
勢い良く頭を下げると、真美はオフィスを飛び出した。
部長に報告しに行った紗絵が戻ってくると、真美はすぐさま立ち上がって尋ねた。
若菜達他のメンバーも、身を乗り出す。
「んー、ひと言で言うと激怒してた」
ああ……、と皆は視線を落とした。
「でも私達が今やるべきことは、部長のご機嫌取りじゃないわ。クライアントに誠心誠意謝罪して、きちんと正しいシステムをお届けすることよ。伊藤くんが本来送るはずだったシステムを、皆でチェックしましょう。これ以上失礼のないように。それから先方に知られてしまったもう一つのクライアントにも、説明と謝罪に行かなければ。報告書を作成するわよ」
「はい!」
皆で気を引き締め、手分けして作業に当たった。
潤がオフィスを出てから3時間が経った午後5時。
潤から紗絵に報告の電話が入った。
「そう、分かったわ。とにかくお疲れ様。オフィスで待ってるから」
電話を切った紗絵は、心配して固唾を呑んでいたメンバーを見渡す。
「クライアントに謝罪して来たそうよ。今回は、間違って送ってしまった方も、間違えられた方も、厳密に言うとうちの関連会社だったから、対外的には特に問題はなかったそう。伊藤くんを初めてひとり立ちさせた案件だから、五十嵐くんが多少のミスを予測して敢えてそうしたのが功を奏したわね。ただ、会社として守るべき機密事項をもらしたことは契約違反に当たるから、ここから先は部長の判断に従って行動することになるわ」
はい、と皆で神妙に頷く。
「今回のことは伊藤くん一人の責任じゃない。彼の行動を把握していなかった私達みんなの責任よ。だからみんなで一緒に乗り越えましょう。二度とこんなことを起こさないように」
「分かりました」
「さあ、落ち込んでる暇はないわ。マニュアルの見直し、報告書の作成、色々頼んだわよ」
「はい!」
気を引き締めて、真美達はまたデスクに戻る。
その時だった。
いきなりギシッとデスクがきしむ音がしたあと、一気にガタガタと大きく揺れ始めた。
「キャーー!」
若菜の悲鳴が響く。
(え、地震?大きい!)
グラグラと立っていられないほど揺さぶられ、思わず真美はデスクにしがみつく。
「みんな、とにかくしゃがんで!」
紗絵が大声で叫び、ハッとして皆はデスクの下にうずくまった。
ゴゴゴ…と地鳴りのような不気味な音と、デスクの上から物が落ちるガシャン!と派手な音が辺りに響き渡る。
「怖い!」
「若菜ちゃん、落ち着いて。大丈夫よ」
根拠はないが、とにかく大丈夫と真美は若菜に繰り返す。
そのうちに、バチン!と電気が一斉に消えて、オフィスは真っ暗になった。
キャーー!と若菜が更に大きな悲鳴を上げる。
(停電?)
そう思っていると、不意にパッと明るくなった。
「自家発電に切り替わったようね。地震も収まったみたい。みんな、大丈夫?」
紗絵の冷静な声に、ようやく若菜もホッとしたようだった。
「怖かったー!物が飛び散ってますね」
オフィスの床には、ノートや書類、電話やパソコンなど、デスクに置いてあったありとあらゆる物が散乱していた。
「片付けなんて今はやらなくていいから。安否確認するわよ。ケガしてる人はいない?」
大丈夫です!と次々声が上がる。
「ここにいない課のメンバーは、五十嵐くんと伊藤くんだけ?」
「そうです」
「分かった。じゃあ、これから指定された避難経路を通って外に出るわよ。余震が来るかもしれないから、充分気をつけてね」
はい、と頷いた真美は、次の瞬間ハッとして顔を上げた。
(がっくん!)
保育園にいる岳は無事だろうか?
潤は今、謝罪先の千葉からこちらに向かっている最中だろう。
もしかしたら、電車の中に閉じ込められているかもしれない。
(お迎えに行かなきゃ!)
真美は鞄を掴むと紗絵に早口でまくし立てた。
「すみません!紗絵さん。家族が心配なので、帰宅してもよろしいでしょうか?」
「え?真美、ひとり暮らしじゃなかった?」
「そうですけど、お願いします!一刻も早く行ってあげないと!」
必死の形相の真美に、紗絵は頷く。
「分かったわ。くれぐれも気をつけるのよ?真美」
「はい!ありがとうございます」
勢い良く頭を下げると、真美はオフィスを飛び出した。