小さな恋のトライアングル
「あ、望月さん!」

真っ暗な保育園の門の前にいた岳の担任の先生が、真美に気づいて声をかける。

「先生、あの、がっくんは?」

はあはあと息を切らせながら、真美は何よりもまず岳の様子を聞いた。

「無事です。今、ホールで他の先生と一緒にいます」
「そうですか、良かった」
「望月さん、会社から走って来てくださったんですか?すみません。五十嵐さんの携帯に何度もかけてるんですけど、繋がらなくて」
「ええ。課長は千葉に行っていて、会社に戻る途中で地震が起こったみたいで」
「そうでしたか。地震は千葉が震源地で、震度も6だそうですから、心配ですね。望月さんがいてくださって良かったです。さあ、どうぞ中へ」
「はい」

保育園の中は真っ暗で、懐中電灯が所々に置いてあった。

広いホールの真ん中に、先生と一緒に座っている岳を見つける。

他の園児は誰もいなかった。

「がっくん!」

大きな声で呼ぶと、岳はハッとして顔を上げる。

「まみ!」
「ごめんね、がっくん。遅くなって。お迎えに来たよ」

そう声をかけると、岳はなりふり構わず先生の手を振り解いて立ち上がり、一目散に駆けて来て真美に飛びついた。

「うわーん!」

小さな身体を振り絞るように、大声で泣き始める。

「わーん!」

真美はひざまずいて岳を力いっぱい抱きしめ、何度も頭をなでる。

「ごめん、ごめんねがっくん。遅くなって本当にごめん。怖かったよね?寂しかったよね?よくがんばったね。もう大丈夫だからね」

岳の気持ちが落ち着くまで、真美はただひたすらギュッと岳を抱きしめて頭をなでていた。
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