小さな恋のトライアングル
「えっ、まみといっしょにくらすの?やったー!」

翌朝。
すっきりと目覚めた岳に、これから3人でマンションに帰ると話をすると、岳は飛び跳ねて喜んだ。

「岳、ほんのちょっとの間だけだぞ?ずっと一緒に暮らす訳じゃないからな」

潤が念を押すが、岳は「わかってるー」と言いながら真美と手を繋いでぴょんぴょんするばかりだ。

絶対分かってないだろ……、と潤は肩を落とした。

とにかく今は、岳に楽しく毎日を過ごしてもらいたい。
少しずつ元の生活に戻していければ。

そう潤と真美は話し合っていた。

保育園からは、必要であれば預かるが、出来れば家庭での保育をおすすめする、という一斉メールが届いた。

「岳の口から保育園の話が出るまでは、しばらく通わせるのは控えよう」

潤の言葉に真美も頷き、保育園にもそう連絡を入れる。

電車も始発から本数を減らして動いているようだったが、移動にはタクシーを使うことにした。

真美は旅行用のスーツケースに着替えや身の回りのものを詰めて、潤と岳と一緒にマンションに向かった。

「たっだいまー。まみ、こっちこっち」

潤のマンションに着くと、岳は嬉しそうに真美の手を引いてあちこち案内して回る。

「うがいとてあらいは、ここで。トイレはここ。おふろはこっち。で、ベッドはこのへや」

岳が寝室のドアをガチャッと開けると、後ろで潤が「あー!」と声を上げた。

「なんだよ、じゅん。おおきなこえだして」
「ごめん、望月。ちょっと散らかってて」

慌ててドアを閉めようとする潤に、真美はふふっと笑う。

「大丈夫です。今は地震でどのおうちも散らかってるでしょうから。あとでお掃除しておきますね。それより、課長。がっくんにママとテレビ電話させてあげては?」
「あ、そうだったな。岳、リビングに行こう。望月、シャワー使うか?」
「はい、お借りします」
「うん、タオルとドライヤーも適当に使って。あと、望月の部屋はこっち。普段は使ってないんだ。自由にしてくれていいから」
「ありがとうございます」

真美がバスルームに行くと、リビングから岳の嬉しそうな「ママ―!」という声が聞こえてきた。

(良かった。がっくんもママも安心しただろうな)

そう思いながら広いバスルームで髪と身体を洗う。
ついでにお風呂掃除も済ませておいた。

服を着てドライヤーで髪を乾かしてから、リビングに戻る。

岳はテレビ電話を終えていて、潤が床に散らばったものを片づけていた。

「課長、お片付けやっておきますので、がっくんとお風呂どうぞ」
「ありがとう。岳、風呂入るか」

うん!と岳がバスルームへと向かい、潤もあとを追う。

真美は改めて部屋を見渡した。

日当たりのいいリビングは広く、ここだけで真美の部屋の2倍はありそうだ。

家具もシックで高級感に溢れ、センスの良さはさすが潤の部屋、といった感じがする。

ひとまず床に落ちている本などを棚に戻し、窓を開けて部屋の換気をした。

キッチンへ行くと、食器棚の扉が開き、いくつか食器が割れている。

(大変!がっくんがケガしちゃう)

真美はキョロキョロと辺りを見渡し、キッチンペーパーに食器の欠片を手で拾ってから包み、ビニール袋に入れて口を閉じた。

(掃除機、掃除機……)

壁一面が天井までの収納になっているようだが、勝手に開けて探すのもはばかられ、あとで聞いてからにしようと諦める。
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